「あっ──流れ星だぁ」
「綺麗だな」
目をキラキラしながら流れ星を見ている僕はふと視線に気づいた。横目でチラッと薫を見ると、優しい眼差しで微笑んでいた。ドキッとした伊月はあたふたしながら、視線を元に戻すと、何もなかったように振る舞う。
「ね……綺麗」
「伊月がな」
最近薫は、ストレートに気持ちを表現するようになった。あの時は無愛想で興味が無いような感じだったのに、今では甘々だ。
体格も以前よりガッチリしていて、腕周りなんて僕の2倍もある。僕が成長してないのもあるかもしれないけど、色気も含んでいて、どこを見たらいいのか困ってしまう程だ。
「照れてるのかな? 可愛すぎ」
「もう!イジワル」
最近なんだか薫に負けている気がする。どんな言葉で返しても、態度を変えてみても、余裕があるように見える。自分だけが焦っているような感じがして、凄く悔しい。
ここまで薫が変わったのは、自分の環境が原因なのだと思う。なかなか連絡がつかなかった親父が薫に会いに行ったと聞いた時、警戒したが、僕の保護者として恋人と話がしたかったらしい。
薫に探りをいれると交際を認めて貰えたと喜んでいた。そこから親父との親交は続いているらしい。
僕は何も知らずに、薫の手を撫でる。霜焼けになりかけている手を、自分のポケットに入れ、その中で固く結ばれるように、離すことはなかった──
■□■□■□■□
全てを知って伊月を受け入れれるのか、迷った事もある。父の事を聞いた瞬間は、驚いて言葉が出なかった。昔の薫なら親父さんを責めていたかもしれない。だけど、伊月といたいと思う気持ちに偽りはなかった。
泣いている顔も、恥じらう姿も、楽しそうに笑い合う未来も、守りたい。だからこそ、過ぎた事ではなく、これからに目を向けて、生きる事に決めたのだ。
伊月に話す事は出来るが、今はまだその時期ではない。自分に与えられた役目を全うするまでは、言わないつもりのようだった。
「どうしたの?」
考え事にふけていると、上目遣いで薫を覗き込んでくる。そんな姿が、愛おしくて固くなってた空気感がふんわりと和らいでいく。
頭を撫でながら、頬にキスを落とすと、へへ、と照れ笑いで誤魔化しながら、嬉しそうにニッコリしてくる伊月がいる。
いつまでこの幸せを、温もりを守れるかは分からない。だが手放すつもりも、諦める事もしないと心の中で誓った。
右手は伊月と温もりを分かち合い、左手はゆっくりと自分のポケットへ入れていくと、コロンと指先に当たった宝物を手繰り寄せた。
「右手を出して」
「ん?」
「ほら」
「うん」
たどたどしく取り出すと薬指に自分の想いを込めた指輪をはめていく。驚きながらも、嬉しそうにニヤけ始めた伊月をみて、ふっと笑った。
──俺がハマったのは可愛い幼なじみだ。
覚悟を決めた先に、やっと本当の意味で恋人になったのかもしれない。
薫達を見つめながら、その光景を微笑ましく夏樹と桐也が見ている。2人も同じ事を考えていたらしく、屋上へ来たようだった。
先約がいたのは残念だが、2人が幸せそうならそれでいいと思った2人は、音を立てないように、その場を後にした。
寄り添う2人の背中を星々も祝福し、それぞれの特別な夜を大切に、噛み締めていく。いつかこの瞬間が、忘れる事のない想い出に代わる、その日まで──