今日1日イライラしている伊月は何度も、スマホを確認している。繋がらないのは分かっているが、それでも親父にどういう事かの確認をしないと、気が済まないらしい。
「んあー繋がらない」
機嫌がどんどん悪くなるのを、横で見ている薫は意識を自分に向ける為に、ふいうちのキスをした。あまりの急な事に、フリーズした伊月は時間差てわなわなと、その怒りを薫へぶつけた。
「人が必死になってる時に!」
「繋がらないのなら、夏樹に聞けばいいよ。それより、俺が横にいるのに見向きもしないなんで、寂しいじゃん」
うるうるした瞳で語ってくる薫の手を払う事が出来ずに、受け入れた。わざとそのキャラを作っているのは分かるが、それでも可愛すぎる。
「薫、そんな顔で見ないで……」
「じゃあ無視しない?」
「もちろん」
今は自分の要件よりも、薫を優先する事に決めたようだった。薫の言う通り、焦っても空回りするだけだ。後から夏樹に連絡する事にし、気持ちに応えるように、抱きしめた。
晴れているのに、少しひんやりした風が頬を撫でた。ブルっと軽く震えた薫は、温もりを求め、より強く抱きつくと、耳元に息をかけながら、伊月の反応を試した。
「っ……」
耳が真っ赤になっていく。一生懸命、反応しないように耐えている伊月を見ていると、心が温かくなっていく。愛しさが膨れ上がり、バクバクと心臓の音が早くなる。
クラスメイトの前でキスをしたのに、やはり学園でイチャイチャするのは慣れていない様子。今の姿を、皆に見せつけて自慢したくなるが、照れている伊月を他の奴に見せたくない気持ちが勝つと、ここだけの秘密として心に焼き付けた。
「幸せだな」
ふんわりとした匂いを楽しみながら、幸せそうに囁くと、伊月も耳元で同じ事をする。
「本当に幸せだねっ」
ふふっと笑うと、いつものゆるふわな伊月へと戻っていく。さっきまで機嫌が悪かったのが、嘘みたいだ。薫からしても、気になる事が山ほどあるが、こういう2人でいれる、ゆっくりした時間があってもいいと思っていた。
楽しい事も悲しい事も、全部2人で分け合いながら、支え合い生きていく。伊月に再開するまでの自分は、過去に囚われていて、前を向く勇気もなかった。無関心な振りをして、自分を守っていたのだ。
それを簡単に飛び越えてきて、生きる楽しみを教えてくれたのが伊月だった。1度失ったから余計、気持ちが膨れ上がっていたのかもしれない。
2人はお互いの存在を受け入れるように、深く深くキスをする。とても甘く、切ない味がした。