自分の手から離れていくのは寂しいが、そうやって徐々に大人になっていくのだろうなと
「時間が経つのは早いな」
助手席に座っている
こうやって二人で会うのは久しぶりの事だった。親友であり、元恋人の二人は大人になり、違う人生を歩んでいる。
「伊月の事、ありがとうな」
「お前の最後の頼みだからな。断る訳ないだろう」
「……ははっ、そうだな」
「戸籍が変わっても、父親はお前だけだからな」
「俺らが歩いた道をあの子達も、選ぶのだろうか」
いつかは別れがくる、それが分かっている2人は若かったあの頃の自分と重ねながら子供達を見守っていくのだろう。
「伊月に恋人が出来たな、根性がある」
「知ってるよ、まさか狭間先輩の息子とは思わなかったけどな」
青春時代を共にし、互いの大切なものを奪う事で立場を守ろうとした祖父達のようにはならないように、見守ってきたはずだった。
その中で1番犠牲を背負ってしまったのが、薫の父、狭間
「知らないでは済まないな……あの子達にはあの子達の人生があるのだから」
郁人は自分がどれだけ、子供達を縛っていたのかを理解すると、少し離れた方がいいと考え天田に手紙を渡した。連絡はいつでも取れるように、次の拠点の連絡先を送るつもりだった。
「悪い父親かな」
「俺もかわらないよ……」
こんな時、昔の楽しかった話をするのが一番なのかもしれないが、どうしても割り切る事が出来ない。大人になれば、少しは変わるかもしれないと期待していたが、待っていたのは自分達が残した傷を子供達に与えようとしていた現実だった。
「あの子達が、俺らのようになるかは分からないけど、信じてみよう」
凪は郁人に説得するような雰囲気で、提案をすると、涙の代わりに笑顔を見せた。
微かに残っている涙は風が拭いながら、この2人の空間を守ってくれているように感じながら、走り続けた──