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第22話 サプライズ


 いつものように授業を受ける桐也は斜め前でノートに写している夏樹をチラッと確認をした。どうして1年下の夏樹がここにいるのかと、驚いたが、先生の説明で納得はしている。夏樹の学力なら飛び級で大学受験も出来たはずなのに、この学園に固執しているのか理由がありそうに思えた。


 念の為、根掘り葉掘り聞かれないように、初対面を装ってはいるが、いつまでそれがもつのかは分からない。同棲をしているのがバレる可能性は無きにしも非ず。見た目で気づかれないように、していると言っても限度がある。


 転入する事を何も知らなかった桐也は、3日前の事を思い出せずにはいられなかった。今思えば、あの時の親父の言い方に不審を抱いていたからだ。


 「天田くん、夏樹が迷惑かけると思うが、サポートしてくれないかな」

 「勿論です。同棲してますし」

 「それ以上に……いや、なんでもない」


 何かを伝えたそうにしている親父は、隣に座っている夏樹の様子を伺いながら、話している。ゴホンゴホンとわざとらしい咳をして、何かを伝えようとしているが、桐也にはサッパリだ。


 「親父、もういいだろ」

 「ああ……悪いね」


 天田くん、と言葉の代わりに手紙を手渡すと、罰が悪そうに部屋を出て行った。親父の背中を見送ると、早速、渡された手紙を開けようとする。そのタイミングでヒョイと掠め取った。


 「これは、俺が預かっとく」

 「お……おい」


 手を伸ばし、取り返そうとする桐也に対して、何か言い訳を考えないと焦りながら、口を早める。


 「感謝の手紙なんじゃねーの? 親父の代わりに俺の面倒見てんだし。それより、風呂入ろ」


 そうやって奪われた手紙を取り返せなかった桐也は、気になりながらも、渋々お風呂へと向かった。



 サプライズがあるからとか色々言っていたが、これがそうかと今なら分かる。親父の手紙にはその種を書いていたのかもしれない。だから、慌てたのだろう。


 ピコンとスマホが光っている。カチカチと机の中でメッセージを確認すると夏樹からだった。


 サプライズだったろ? 帰ったら手紙読もう──


 その前に知りたかったと苦笑いしながら、スマホの電源を落とし、黒板に書かれた数式を写し出した。なんだかんだ、先生に気に入られている桐也は多少、よそ見をしても目を瞑ってくれている。特別扱いされているのかもしれないが、利用出来るものは利用する、ずる賢さがある。


 大切な存在さえ、守れたら──


 いつもならノートもとらないのに、妙にやる気と集中力が高まっている気がした。

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