僕達はあの時の事を思い出しながら、学園の屋上で夜空を見上げている。どうしてもこの夜空を見たくて、隠れながら時間を潰した。
「そんな事もあったな」
「あの時の薫、カッコよかったよ」
そんな会話を繰り返しながら、手を繋ぎ合わせると、思い出に包まれるように、互いが互いの体温を感じようと、寄り添いあった。
「──ほら、あの時だって」
静かな空間の中で星達が語りだし始める。それに合わせて息を吐くと、真っ白な霧が世界を染めた。
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ドタバタとした2ヶ月は早いようで、短い。なんの代わり映えもしない日常が色を取り戻したかのように、色鮮やかな空を見ている。あれから伊月は薫が激しくしたのもあり、1週間追加で休みを延長したようだった。単位とか大丈夫だろうかと心配はしたが、桐也から伊月の成績を聞くと、それは杞憂に終わった。
今日は久しぶりに伊月が登校してくる日だ。この日を待ちに待った薫は、いつもより早く学園に登校していた。
時計の針を確認すると7時半を示している。そろそろ行くか、と屋上を後にした。
コツコツと階段を降りる音が廊下中に響き渡る。薫のクラスは進学コースなので、8時から0限目が始まるのだ。クラスメイトは15分前にゾロゾロと集まるが、まだこの時間帯は2、3人しかいない。
「ん?」
廊下の向こう側に誰かがいる。こちらをみているようだった。薫は目を凝らし、近づいていくと、その影は、慌てながら元来た道を戻っていく。遠目だがガタイがいい事ぐらいしか、確認出来ずにいると、そんな薫の肩を叩き、声をかけてくる人がいた。
「早いな」
「天田先輩──」
その呼び方で呼ぶと、桐也は困ったように苦笑する。学園以外では呼び捨てなのに、桐也の事を考えると、どうしても呼び捨てに出来ない薫がいる。
「呼び捨てでいいのに」
「ダメだよ、一応」
矛盾してるぞ、と薫の頭を撫でながら懐かしそうな瞳で見てくる桐也が今までより柔らかくなっているような気がした。
「お前のおかげだよ、ありがとな」
何に対してお礼を言っているのか、思い当たる節がない薫はクビを傾げる。しっかりしているようで抜けている、ほっとけない存在だった薫が、自分の手から離れたと実感せずにはいられない。
以前は胸がチクチクして、苦しかった気持ちも、今は純粋に応援出来る。伊月の1件があってから、桐也は夏樹が特別な存在と認識する事が出来たのだ。それは2人のおかげでもある。そのきっかけを与えてくれたのだから──
「今日から来るんだろ?」
「うん」
「よかったな、あまりイチャつくなよ」
桐也にそう言われると、恥ずかしいのか顔を隠し、頷く。そんな姿を見て、やれやれと子供を見守るような心境を抱きながら、別れた。