「ちょっ……伊月」
「黙ってて、僕の番だから」
薫は積極的な伊月に驚きながら、起きようとするが、押さえつけられてしまった。見た目に反して腕力に自信がある伊月をどうやって止めようか考える。体もキツいはずだ。いくら同意があったとしても、それは媚薬の力によるもの。理性を失ってしまった自分を責めながら、申し訳ないように見つめた。
「そんな顔しないで。嬉しかったんだから」
「痛いだろ? 休んだ方が……」
その提案はことごとく却下されていく。伊月からしたら自分だけが恥ずかしいと思い込んでいるみたいだ。
「同じ所につけてあげるね」
ニヤリと笑うと、まずは首筋から始めていく。皮膚を吸ってみるが、中々くっきりと跡がつかない。薫はキスマークが付きにくい体質のようで、伊月は徐々にムキになっていった。
チュと赤ちゃんのように吸うと、さっきよりは跡が残るようになっていた。それでも納得出来ない伊月は軽く歯を食い込ませ、今までより強く歯型がつくように、強く噛んだ。
「いっつ……」
「キスマーク付きにくいんだね。だったらこれで僕のものだって印、付けてあげる」
「おい……大丈夫なのか?」
意識を逸らそうと話をすり替えようとする。薫が何を言いたいのか、理解した伊月は「夏樹に任せてるから」と言うと、おもむろに貪り始めた。薫が深入りしてはいけないようで、話をぶり返そうとしても、聞き入れてくれない。こうなったら、伊月の好きなようにさせるのが、今は得策なのかもしれないと納得する事にした。
首筋から始まり胸上、脇と沢山の噛み跡を増やしていくと、薫も痛みにようやく慣れてきたようで、顔を歪ませながらも拒絶しないように、伊月を支え続ける。
体を動かすと下半身が痛いようで、フラっと体制を崩す伊月を抱きしめると、耳元に息を吹きかけ、低音で囁いた。
「無理しなくていい……大丈夫だから」
ここまでムキになるのは、自分の知らない自分の行為を思い出さないように、上書きしたかったのだろう。不安を見せたくない一心で、平気な振りをしていた。
「ごめ……薫は悪くない、僕が」
「大丈夫、ゆっくりゆっくり」
いつも明るく、前向きな伊月の弱さを見た気がした。信頼していた人が、自分を裏切った事もショックだったのだろう。媚薬の効果を知っていた黒服が、あえて伊月に試し打ちをしたのだって予測なんて出来ない事だ。
俺は裏切らない──
言葉にするのは簡単だが、今はどんな言葉も薄っぺらく感じてしまうだろう。どんな我儘を言ってもいい、自分が支えれるからと瞳で語りながら、少しでも伊月が落ち着けるように微笑みながら、震える両手を包み込んだ。言葉より行動で示そう、もっと強くならなくては伊月を守れない、そう心に決めると、ふさっと毛布を掛けた。
「傍にいてね」
「当たり前、ずっと傍にいるよ」
泣き疲れた伊月は、安心したように薫の肩に顔を埋めた。