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第15話 罠


 バシッドゴッと殴る音が響いている。拘束されている桐也は覚悟を決めたようにだんまりだ。いつかは目をつけられる事は、覚悟していたが、思った以上に早かった。それも伊月と関わるようになってから特に。一瞬、伊月の周囲に情報提供者がいるのではないかと考えるしかなかった。


 一応、夏樹にもその事を伝えてはいるが、覚えているかは微妙な所だった。伊月と夏樹の親父にも忠告はしている。


 「お2人で話せる場所を作っていただいて、ありがとうございます」

 「ここなら誰にも聞かれる事はない」


 こんな子供の話にも真剣に耳を傾けてくれる大人はそうそういない。最初はあしらわれるのではないかと緊張していたが、柔らかい物腰が不安を取り除いてくれた。本題に入るとハハッと笑いながら、目を細めた。


 「そうか、君に声をかけて良かったよ。もうそろそろ炙り出した方がいい。君も危険に晒す事になるが、覚悟は出来ているのかな?」


 全ては夏樹を自由にさせる為。直系の夏樹は次期その座に着くことになる。その為に出来る限り、守っていたが、それをよく思わない者達が裏で手を回している。


 だからこそ、父同士が繋がりのある桐也を使い、情報をかき集めていたのだ。


 「覚悟はしています。彼を預かったあの日から……」


 全てが仕組まれていた事を夏樹は知らない。全てを語ってしまうと歪みが出来て、厄介な事になってしまう。


 あの時の話を思い出しながら、耐えているしか出来ない。情報を出す訳にはいかないし、迷惑がかかってしまうからだ。普通の学生として夏樹を日常に戻してやりたい一心で、隙がでてくるのを待っていた。


 ただの弟のような存在だったはずなのに、どうしてだか夏樹の顔が頭に浮かぶ。こんな事になって初めて、夏樹が自分にとって大切な存在だと実感する事になるなんて、考えもしなかった。


 ふっと小さく笑うと、慰めるように月明かりが照らしてくれた。天井から溢れる暖かい光は、まるで包み込んでくれているように暖かかった。


 ドン、とドアがぶち破られる音と共に誰かの声が聞こえる。聞き覚えのある声がこちらに近づいてくる。ピタリと影が止まると、ドゴッと桐也を監視していた男2人をなぎ倒した。


 「大丈夫か、天田」

 「ああ」


 月明かりが2人を照らしながら、警告をする。助けが来たのは有難いが、どうしても気になった桐也は入口の方へと目を凝らした。そこにはゆらゆらと怪しく立っている黒服の男が無表情でこちらを見ている。いつもなら黒服が後始末をしているのに、今日に限って動く気配もない。桐也の様子に異変を覚えた伊月は後ろを振り向くと、バチッと電気が合わさる音を奏でながら伊月の首にスタンガンを当てた。


 「!! 伊月」


 桐也の声は伊月には届かない。スッと意識を手放した伊月はぐたりと倒れ込んだ。その姿を見つめながら、黒服に威嚇の意味を含めた殺意を突き刺していく。縛られている桐也にはそうやって精神的に抵抗する事しか残されていなかったのだった。

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