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第14話 預かった


 桐也が帰ってこない。いくら電話しても留守番電話に繋がってしまう。自分が原因でいつかこんな事が起こるんじゃないかと思っていた夏樹は、黙って入れていたGPSアプリを起動した。スマホの電源は切れていないから、どこにいるのかを確認出来るはずだ。奴らが気づかなければだけど、伊月が自分の影武者として学園へ通い出してから、今まで隠れていた裏切り者達が動き出したのだろう。


 「……場所は分かったけど。俺じゃ敵わないだろうな、伊月に連絡するか」


 こういう時は焦って動いても、いい結果にならない事をよく分かっている。本当は今すぐにでも向かいたい、自分が助けたい気持ちが膨れ上がるが、この前みたいに袋叩きにされるのがオチだろう。


 伊月の事をよく思っていない夏樹。本当は連絡したくないのだが、親父にも自分で動かず伊月を使うように命じられている。自分では何も出来ない悔しさを押し込みながら、電話をかけた。


 「……お前から掛けてくるなんて、明日は雨かなぁ?」

 「……悪いが力を貸してくれ」


 緊迫した声を聞くと、伊月はへらへらと笑うのを止め、話を聞き出した。最初は夏樹が嫌になっただけだろうと言っていたが、その時に桐也のスマホに一通のメッセージが入ってきた。確認するように諭すと、震える指でタップし、開く。するとそこには「預かった」とだけ書かれている。


 「やっぱ俺のせいで……」

 「落ち着け。お前が行ったら今度は袋叩きじゃ済まないだろうな。天田もお前といる事はリスクがあると理解してたはずだ、お前が弱気になったら元も子もないだろ」

 「とりあえず僕が向かう。場所教えろ」

 「分かった」


 場所を聞き出すと黒服に伝えた。薫と分かれてから随分時間が経過している。一瞬、薫にも伝えるか考えたが、これ以上巻き込んではいけないと思い、1人で行く事にした。


 「お前は手を出すな、後始末だけでいい」

 「分かりました」


 伊月のやり方を熟知している黒服はきちんと手順を守ってくれる。だからこそ仕事のパートナーとして使っているのだろう。


 「しかしまあ、夏樹を陥れようとは……これ以上、僕の仕事を増やさないで欲しいね」


 不機嫌になっている伊月の態度を察して、スピードをあげた。薫との過ごした1日を噛み締めていたのに、台無しにする奴らには制裁が必要だなと心に決め、瞳を揺らした。


 夜中の2時を回っている道路は車が全くと言っていい程、通らない。ここが都会なら人に埋め尽くされていたのかもしれないが、ここは違う。都合がいいと思いながら、夜の景色を見つめていた。



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