「ん……朝か?」
いつの間にか意識を失っていたらしい。薫はスマホで時間を確認すると昼を回っている事に気づいた。通知に着信5件とメッセージが入っていた。確認しようか迷ったが、今は体がだるくて仕方がない。もぞもぞとベッドに戻るとすやすや眠っている伊月が目に入った。警戒心の欠片もなしに熟睡している姿を見ていると顔が緩んでしまう。決して他の人には見せない表情だった。
「そういや、無断欠席だ」
今日は平日だ。勿論、学校にも行かなくては行けなかったが、こうやってサボるのも悪くなかった。伊月は家の都合で休んでいるていだが、薫は確実な無断欠席だ。こちらの事情を知っているのは2人を省くと桐也と夏樹だけだ。桐也は薫達の事を把握しているから、そこに期待するしかなかった。
何度も家族から連絡が入っている状況を見れば、そんな気の利いた事をしている訳はないが、一筋の希望を抱いている。
そんなめんどくさい現実から逃れるように伊月の髪を撫でると、サラサラしていて気持ちいいようだ。起こさないように気をつけるが、ふと耳に指が当たってしまった。
「ひゃあ──」
耳が弱いのは理解していたが、夢から覚めるほどとは聞いていない。慌てて、手を話したが、パッチリと目覚めていた。
「寝込みを襲おうとした?」
布団を独り占めし、体を守るようにぐるぐる巻きにしている伊月を見ていると、小さな子犬のようで愛らしかった。ふっと笑ってしまう薫は言葉を濁すと、ポカポカと叩かれていた。
「やめろって、起こそうとしただけ」
「うっそだぁ。ヤラシイ目してた」
そんな事を言い合いながらイチャイチャしている。2人にとってはそれが幸せの形でもあるのかもしれない。
「冗談は置いといて、今何時?」
「14時半」
「マジか……薫サボりじゃん」
「そうなるな」
今まで休んだ事なんて1度もない薫が連絡もなしに無断欠席なんて、皆がある意味驚いているかもしれないと思うとなんだか笑けてくる。伊月は桐也から逐一報告を受けていたから、面白い噂が出来上がっているのでは、と妄想した。
「僕にフラれて傷心で体調不良とか、噂たってそう……」
「そんな訳ないだろ」
否定した薫だが、そう思われているかもと急に不安になった。特に女子は噂が大好物だ。色々と尾ひれがついてそうには感じているようだった。
「顔に出てるよ、大丈夫だよ
顔に出した覚えはないが、少し眉がピクピク動いたり、目が泳いでいると指摘をしてくる。家族にさえも何を考えているのか分からないと言われている薫からしたら、伊月が特殊能力に近いものを持っているのだと、納得するしかない。
「ま、いいか。余計な事考えても、疲れるだけだしな」
「プラスに考えれば、何も怖くなぁい」
声を作り大袈裟に表現する伊月に対して、イラっときたのは言うまでもない。当の本人はその事に気づいていない様子だ。軽く額を小突くと苦笑いをしている薫がいる。