各々が座りたい場所に座って出されたお茶を飲んでいた。少し落ち着いた所で話を切り出そうとする薫は、とりあえず桐也から話を聞く事にした。伊月と夏樹はまだいがみ合っていて話を聞ける状態ではなかったからだった。
「どうして伊月の弟が桐也くんの所にいるのか話してくれないかな?」
「ああ……」
どこからどこまで話したらいいのか模索していると、夏樹が桐也を守るように切り出した。
「桐ちゃんは行き倒れになってた所を助けてくれたんだ」
「バイト終わりに雨に打たれていてね。可哀想だったから、つい拾っちゃって。そしたら住み着いた」
行き倒れになっていたと聞いて伊月を見た。探していたみたいだがどうして警察に言わなかったのかとクビを傾げた。桐也もそうだ。親御さんに伝える選択肢もあったはずなのに、その考えは浮かばなかったのだろうか。
薫1人で考えている。他の3人は流れに身を任しているような感じだった。
「本当は警察に引き渡そうとしたんだけど、夏樹が嫌がってね。帰るのも嫌、家事をするから置いてくれと言われたんだよ。そしたら2人の親父さんから連絡があって、ここに来たって事」
「そうか、僕は何も知らなかった。ただ親父の関係者として天田を紹介されたけど、全ては夏樹が原因だったんだな……」
裏と表が繋がっていく。今まで不透明に思えていた事が少しずつ形を整えられていく。まだ完璧ではないし、全てが分かった訳じゃないけど、別に2人が想いあっている事は無さそうだと安心した。
疑っていた訳ではないけど2人が見えない所で秘密を共有していたから、見えない絆があるんじゃないかと深堀していた自分が、どこまでも幼稚で嫉妬深いと初めて知った。伊月が現れてから、自分がどんどん変わっていっている実感を抱きつつ、話を聞いていた。
「悪いかよ、伊月がいるとこで住むとか有り得ないんだよ」
「なんだと?」
兄弟喧嘩の始まりのゴングが鳴る。2人は今まで我慢していた事を吐き出して相手に叩きつけていく。思う存分言いたい事を言えば、スッキリもするし、擦り合わす事も出来ると信じて決めつけていた。
そんな2人の頭を小突くと桐也は呆れたような顔で言った。
「ヒートアップしてんじゃねぇか」
指摘されて初めてその事に気づいた薫達は苦笑いをしながら桐也の言葉に冷静さを取り戻した。よく空気が読めないと言われた事を思い出して、自分の判断と行動が違った方に向かっていたのに言われて気づく結果となった。