二人並んで大講堂から出ると、仲間たちが一斉に拍手を送ってきた。「な、何だよ」とあわてて反応する。俺の表情を見て、仲間たちはすぐにいろいろなものを察したらしい。三人、嬉しそうに笑顔を浮かべている。俺ってそんなにわかりやすいのかな?
「皮肉な話だけど、筑摩たちが恋のキューピッドになったな」
千代田がニヤニヤしながら、でも心から嬉しそうに、自販機で購入したらしき炭酸飲料を飲む。それ、水ノ宮学園の自販機だろ。
「京、本当によかったね。心配してたんだよ」
矢来が珍しく毒を吐かずに素直な反応を見せる。こいつも根は友だち思いなんだよな。
「成就したか?」
飯田がまっすぐに質問をぶつけてきた。率直なやつだな、お前は。
「……おう」
照れ臭くて、俺はぶっきらぼうに返す。
千晃さんの方はというと、下を向いている。シャイな感じがまた可愛い。
やんややんやと仲間たちに茶化され、むずがゆい気持ちが走るが、二人の関係を心から祝ってくれるこいつらの心意気が嬉しかった。
と、千晃さんが突如こちらを見上げた。
「うん?」
俺は少し屈んで、相手の顔を覗き込む。
「幸介くん」
千晃さんが俺の名を呼ぶ。
とても真剣な瞳で。
意外にも強いまなざし。
若干緊張し始めた俺に合わせるように、彼ははっきりとした声量で、
「デートしよっか」
そう言った。
……千晃さん、あなたはどんな男前ですか?
俺が飛び越えたくても越えられなかったボーダーラインを、この人は軽々とハイジャンプしてきやがった。なんちゅう大物だ。天晴としか言いようがない。
最初から、勝てるわけがなかったんだ。
俺は彼に、何もかもリードされてる。
「――うごおぉぉぉぉっ!」
「えっ、何、どうしたの!? 幸介くん!?」
咆哮した俺に千晃さんはあわてて駆け寄る。下腹部を押さえて見悶える俺の様子はさぞみっともないだろうに、まったくためらう素振りを見せずに優しく背中をさすってくれる。
なぜか急に腹が痛くなった。
「ご、ごめん、ちょっと……嬉し過ぎて……腹を下した……」
痛え。マジで痛え。あとゴロゴロって音がしてる。冷や汗が止まらない。何でこんな時に下痢みたいな症状が出るんだ、俺の体調よ。
「お腹壊しちゃったの? 待ってて、保健の先生に薬もらってくるね!」
千晃さんは天使のような言葉をかけてくれて、中庭の扉口から校舎内に入っていった。
「嬉しくて脱糞か……。その気持ちはよくわかんないな……」
世にも下品な台詞を矢来が言ってのける。他人事みたいな顔するな。サイボーグめ。
千晃さんが腸内環境改善の薬を持って駆けつけてくれる頃には、俺は自分の尻を押さえながら内股になっているキモいポーズを晒していた。
思いが通じ合った途端にこの有りさまだ。あまりにもハイリスクハイリターンな俺の恋路は、何とも前途多難である。