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第13話 魅了

部屋に防音と目隠し、侵入阻害の結界を張る。

人払いは済ませている。そもそも深夜なので、人が訪ねてくることはないだろう。

寝室を使わないとならないのが痛いが、深夜に他の部屋にこもるのもおかしいから仕方ない。


私は寝台の端に腰を掛けて、空中に向かって話しかける。

「そこにいるのだろう。アメリア。そなたと交渉したいことがある」

「……エンダーン様ではなく、私に?」

姿は見えないが、すぐ近くから聞きなれた声が私に応える。


「そうだ」

「私がその交渉事に応じると思って?」

「話だけでも聞いてみてはどうだ。それから判断してくれてかまわない」

「ふーん」


私のすぐ隣に、プラチナブロンドの髪に赤い瞳の少女が現れた。腕と腕が密着するほど近い。

「こんばんは。カミュスヤーナ様」

私の愛しい少女にそっくりな容姿、声。彼女は私の顔を仰ぎ見ると、艶やかに笑う。

「私をお呼びいただけるなんて光栄ですわ」


「……ここでは、奴に身体や視力を貸すことはできない。結界を張ったからな」

「あらあら、エンダーン様に内緒のお話ですか?」

「彼女の身体を返せ」

「それはできません」

「代わりに私をくれてやる」

少女は私の言葉に目を見張った。


「本気ですか?まぁ、エンダーン様はお喜びになられると思いますが、この身体も気に入っていらっしゃったのですよね」

どうしましょう?と彼女が小首をかしげる。その様子が愛しい少女を思い出させる。


「優先順位としては私の方に興味があるのだろう。奴は」

「それはおっしゃる通りですね。貴方が手に入れば、この身体はなくてもいいのかもしれませんね」

「そなたは捨てられるのだな」

私の言葉に、アメリアはピクリと身体を震わせた。


「私が奴の元に赴いたら、奴はきっと私で遊ぶことに夢中になるだろう。そしてそなたは捨てられ、忘れ去られるのだ」

「そんなことは」

「ないとなぜ言い切れる。むしろそうなることしか想定できないが」

アメリアの顔が引きつっている。笑みを浮かべようとしているが、それに失敗して顔をゆがめている。


「そなたはそれでいいのか?」

「私はエンダーン様の配下でしかないのですから」

「私はそなたがエンダーンの寵愛を得られるよう取り計らえる」

「!」

「そなたが私に協力するなら、だが」

私はエンダーンに似せた笑みを浮かべて、彼女の顔を覗き込む。アメリアが呆けたように私の瞳を見つめる。


私はアメリアと視線を交差させたまま、彼女に魅了の術をかける。

しばらくすると、アメリアが頬を赤く染めて、ほころぶように笑った。

テラスティーネが笑いかけているようで、胸が痛くなる。


「今から言うことを実行せよ」

「はい、仰せのままに」

彼女は私の指示を聞き遂げると、目の前に跪いて礼をとる。

私は彼女の頭の上に右手を置いた。

彼女は私の手を下から見上げた後、姿を消した。


私は緊張から解き放たれて、寝台に仰向けで身体を預ける。

アメリアには結界から抜けると、このことを記憶から消してしまうよう暗示をかけた。

彼女は意識することなく、私が話した通りに動くだろう。


このままテラスティーネの身体だけ取り返したとしても、きっとまた魔王は干渉してくる。ならば、これを機に魔王の力をそいでおかなくては。

私は愛しい少女と一緒にいる時間を伸ばそうと、行動をしている自分に気づいていなかった。

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