部屋に防音と目隠し、侵入阻害の結界を張る。
人払いは済ませている。そもそも深夜なので、人が訪ねてくることはないだろう。
寝室を使わないとならないのが痛いが、深夜に他の部屋にこもるのもおかしいから仕方ない。
私は寝台の端に腰を掛けて、空中に向かって話しかける。
「そこにいるのだろう。アメリア。そなたと交渉したいことがある」
「……エンダーン様ではなく、私に?」
姿は見えないが、すぐ近くから聞きなれた声が私に応える。
「そうだ」
「私がその交渉事に応じると思って?」
「話だけでも聞いてみてはどうだ。それから判断してくれてかまわない」
「ふーん」
私のすぐ隣に、プラチナブロンドの髪に赤い瞳の少女が現れた。腕と腕が密着するほど近い。
「こんばんは。カミュスヤーナ様」
私の愛しい少女にそっくりな容姿、声。彼女は私の顔を仰ぎ見ると、艶やかに笑う。
「私をお呼びいただけるなんて光栄ですわ」
「……ここでは、奴に身体や視力を貸すことはできない。結界を張ったからな」
「あらあら、エンダーン様に内緒のお話ですか?」
「彼女の身体を返せ」
「それはできません」
「代わりに私をくれてやる」
少女は私の言葉に目を見張った。
「本気ですか?まぁ、エンダーン様はお喜びになられると思いますが、この身体も気に入っていらっしゃったのですよね」
どうしましょう?と彼女が小首をかしげる。その様子が愛しい少女を思い出させる。
「優先順位としては私の方に興味があるのだろう。奴は」
「それはおっしゃる通りですね。貴方が手に入れば、この身体はなくてもいいのかもしれませんね」
「そなたは捨てられるのだな」
私の言葉に、アメリアはピクリと身体を震わせた。
「私が奴の元に赴いたら、奴はきっと私で遊ぶことに夢中になるだろう。そしてそなたは捨てられ、忘れ去られるのだ」
「そんなことは」
「ないとなぜ言い切れる。むしろそうなることしか想定できないが」
アメリアの顔が引きつっている。笑みを浮かべようとしているが、それに失敗して顔をゆがめている。
「そなたはそれでいいのか?」
「私はエンダーン様の配下でしかないのですから」
「私はそなたがエンダーンの寵愛を得られるよう取り計らえる」
「!」
「そなたが私に協力するなら、だが」
私はエンダーンに似せた笑みを浮かべて、彼女の顔を覗き込む。アメリアが呆けたように私の瞳を見つめる。
私はアメリアと視線を交差させたまま、彼女に魅了の術をかける。
しばらくすると、アメリアが頬を赤く染めて、ほころぶように笑った。
テラスティーネが笑いかけているようで、胸が痛くなる。
「今から言うことを実行せよ」
「はい、仰せのままに」
彼女は私の指示を聞き遂げると、目の前に跪いて礼をとる。
私は彼女の頭の上に右手を置いた。
彼女は私の手を下から見上げた後、姿を消した。
私は緊張から解き放たれて、寝台に仰向けで身体を預ける。
アメリアには結界から抜けると、このことを記憶から消してしまうよう暗示をかけた。
彼女は意識することなく、私が話した通りに動くだろう。
このままテラスティーネの身体だけ取り返したとしても、きっとまた魔王は干渉してくる。ならば、これを機に魔王の力をそいでおかなくては。
私は愛しい少女と一緒にいる時間を伸ばそうと、行動をしている自分に気づいていなかった。