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第7話 回想 出会い

私がカミュスヤーナ様と初めてお会いしたのは、6歳のとき。

母を病気で亡くしたばかりの私は、毎日泣き暮らししていました。

私も母を追って儚くなりたいと何度も思ったものです。


ある日、領主様より屋敷にくるよう命ぜられました。

領主様は私の母の兄にあたります。

目の前で跪く私を見て、領主様も領主夫人も痛々しそうに顔をゆがめました。

「テラスティーネ。貴方、ちゃんと食事はとっているの?こんなにも細くなってしまって」

領主夫人は私の手をとり、甲を優しくなでてくださいました。


正直、母が亡くなってから、食欲がわかず、侍女に泣かれんばかりに懇願されるので、形ばかりの食事をとっていました。

そのため、私の手足は細くなり、6歳の子どもであるにもかかわらず、頬はやせ、肌色も青白くなっていました。


「そなたはしばらくこの屋敷で暮らすこととなった」

領主様はそうおっしゃられました。

「屋敷には私の息子が2人いる。下の息子は年も近い。きっと仲良くなれるであろう」


その時、部屋にノックの音が響きました。

「カミュスヤーナ様とアルスカイン様をお連れしました」

「通せ」

領主様の声を受けて、部屋の中に2人の少年が入ってきます。


先に入ってきたのは、プラチナブロンドの髪に赤い瞳の少年です。顔立ちが整っており人形めいた印象がありますが、浮かぶ表情は柔らかです。

その後に入ってきたのは、紺色の髪に金色の瞳の少年です。こちらの方が下の息子さんでしょう。顔立ちは領主様にそっくりです。


「紹介しよう。私の息子のカミュスヤーナとアルスカインだ。カミュスヤーナはそなたの5つ上で11歳。現在は院に通っている。アルスカインはそなたの1つ上で7歳。来年から院に通う。そしてこちらは私の妹の子で、テラスティーネだ。そなたたちの従兄妹にあたる。しばらくこの屋敷に住むことになったから、仲良くしなさい」


「はじめまして。カミュスヤーナと申します。兄と思っていただければ幸いです」

「はじめまして。アルスカインです。よろしくお願いします」

二人は私の前に跪いてあいさつをしました。


「お初にお目にかかります。テラスティーネと申します。以後、よろしくお願いいたします」

私は何とか挨拶を返すことができました。


◇◇◇


「テラスティーネ様。カミュスヤーナ様がいらしていますが」

「今、まいります」

私は鏡で自分の様子を見直しました。


あの頃はやせていた頬もふっくらとし、体形も年相応に戻っています。

9歳になった私は、少しはカミュスヤーナ様に並び立てるような容姿になれているのでしょうか。


カミュスヤーナ様をお迎えするために、部屋を出ます。

「カミュスヤーナ様は、本当に毎日のようにテラスティーネ様の様子を伺いにいらっしゃいますね」

「ありがたいことです」

侍女の言葉に、私は笑みを浮かべて答えます。


初めてお会いした時の私のやつれ具合が、カミュスヤーナ様の御心を痛めたそうで、私の様子を毎日のように見に来てくださり、そのまま食事やお茶をご一緒することが多いのです。もう、あれから3年もたっているのですから、その気遣いに恐れ多くなります。

院でのお勉強など、お忙しい身でございましょうに。


アルスカイン様は一つ違いということもあって、院でお話をする機会が多く、帰宅してからも顔を合わせることはありますが、カミュスヤーナ様ほど自宅で一緒にお時間を過ごすことはありません。


「テラスティーネ」

部屋に入ってきた私を見て、カミュスヤーナ様のお顔がほころびました。

いつもじっと見つめてしまうほど、カミュスヤーナ様の顔(かんばせ)は美しいのです。ぶしつけかもしれませんが。


「ああ、今日も体調はいいようだね」

カミュスヤーナ様は私より背が高いので、隣に立つと、私が仰ぎ見る形になってしまいます。

そのため、カミュスヤーナ様は私に話しかけるときは、私の首が疲れてしまわないよう、私の前に片膝をついてくださいます。


「あの……。カミュスヤーナ様。毎日私の様子を見に来て下さるのは大変なのではないですか。私は大丈夫ですから、こんなに頻繁でなくてもいいのですよ」

「私がテラスティーネに会いたいから来ているのだ。そんな気を使わなくていい」


柔らかい笑みを浮かべられて、カミュスヤーナ様は私の頬を撫でました。

カミュスヤーナ様のお顔が近くて、私は撫でられている頬が赤くなるのを感じます。

「今日は草花の図鑑を持ってきた。時間があるときに読むといい」

「いつもありがとうございます」


私のところにいらっしゃる時には、花や本、お菓子などをお持ちくださいます。私はいつもいただく行為にどのようにお返しをすればいいのか……困ってしまうのです。


「テラスティーネ。次の日曜日は空いているかい?」

「特に用事はございませんが」

「この近くにフィラネモの丘があるのだ。今が見ごろだという。久しぶりに外に出ないか?」

「いいのですか?」


フィラネモは青い小花をたくさん咲かせる花で、春に丘全体を覆うように咲きます。遠くから見ると青一色の丘になっているのでしょう。

外にはほとんど出ずに過ごしていたので、見るのは初めてです。


「はい。嬉しいです。楽しみにしております」

カミュスヤーナ様が優しいまなざしで私をご覧になりました。


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