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第6話 第二夜続き

「他にも聞きたいことがあるのだけれど」

彼の眉が上がる。どうやら面白がっているような様子を感じる。

「答えられることには答えるが」


「私とあなたは従兄妹同士だけど、私の母が亡くなったことで、あなたと兄妹のように過ごしていたのでしょう?」

「そうだな」

「ここ最近はどうだったの?」

「ここ最近か……。このところは一緒に食事をすることはあるが、ほとんど話していないな」


「それは貴方の仕事が忙しいとか?」

「それもあるが、私は意図的に君を私から遠ざけていた」

カミュスが若干苦しそうに顔をゆがめた。

「仲が悪くなったの?」

「私の側にいると少なからず危険だったから」

これ以上聞くのは、難しそうだ。私は話題を変えた。


「遠ざけていた私が、魔王に身体を奪われて、貴方の夢に逃げてきたのは、偶然?」

私の言葉を受けて、カミュスが考えるように顎に手を当てる。


「彼奴がどのように君に接触してきたかがわからないので、確信はないが。。君の身近にいる魔法士が私だったのではないか」

「でも院に通っていたのでしょう?魔法士は他にもいるのでは?」

「数は多くないかもしれないが、いるだろうな。後の君のように魔法士で教鞭をとっている者もいるのだから」

「教師ということは魔法にはたけているのでしょう?そちらを頼らなかったのは何か理由があるのかしら?」


きっと、カミュスは何かを隠して、ごまかそうとしている。と思った。

私が問い返すと、カミュスは言いにくそうに言葉を発した。

「……実は、人の夢に意識を退避させるのは、ある条件がそろっていないとできないことなのだ」


「成立条件ってなに?血のつながりが必要とか?」

だったら、従兄妹同士だし、わかる気がする。

「いや、血のつながりは関係がない。私は養子だから、君と血は繋がっていない」

「養子?カミュスが?」

「私は魔力量の多さをかわれて、エステンダッシュ領の領主に養子にもらわれたのだ」


元々、カミュスはエステンダッシュ領の領主を補佐する摂政役の息子であったそうだ。だが幼いころから魔力量が多かったため、領政の安定と次期領主の摂政役を任せる目的で、6歳の時に領主の養子になったという。


「私が養子としてもらわれた時、次期領主はまだ2歳だった。次期領主が成人するまでは、私が一時的に領主になる可能性もあったため、私は領主と摂政役のどちらにもつけるように教育を受けた。そして、私が成人し院を卒業してすぐに、エステンダッシュ領で疫病が流行した。領主とその妻、私の元父親である摂政役も疫病で亡くなり、私が急遽領主となった。疫病は後予防薬が作成され、根絶され、4年かけて領政を整え、今に至る。まもなく次期領主である弟のアルスカインが成人するので、私は領主を引き継ぎ、摂政役になる予定だ」


「で、私がカミュスの夢の中に退避するに至った成立条件とは?」

私の問いかけに、彼はひくっと口の端を引きつらせる。

けむに巻こうとしても無駄なのだから。私はあえてニッコリとカミュスに微笑みかけた。


「推測だが、聞きたいか?」

「よくわからないけど、続けて」

「……君には私の魔力が流れている。とある事情により。そのため、退避しようとした時に同じ魔力に引き寄せられて、私の夢の中に入ってきた。と推測される」


「魔力を他の人に流すことができるの?流すと何か起こるの?」

「魔力を他の人に流すことは、普通はできない。魔力を奪うのと同様に。だが、私は君に魔力を流す必要があった。だから、一か八か試したのだ」

カミュスが私の顔を苦しそうに見つめる。


「実は君も疫病にかかって死にかけた。君を助けるために、私の魔力を流した。私の魔力には疫病から身を守る、そして疫病を払う効果があったのだ。残念ながらそれが分かったのは、領主夫妻や父が亡くなった後だ」とカミュスは言葉を続けた。


「先ほど言っていた薬は、あなたの魔力で作られているの?」

「さすがにそんなに多くの魔力を提供することはできないので、似た素材で私が作ったのだ。弟も飲んでいる。君には薬の作成が間に合わなかったので、賭けではあったが直接魔力を流した」

「でもよくあなたの魔力が疫病に効くなんてわかったわね?」

「それは……。まぁ、いろいろ試行錯誤した結果だ」


カミュスは大きく息を吐いた。よくため息を吐いている。顔色もあまりよくない。

疲れているのかしら。

「あなたは今までとても頑張ってきたのね」

私は、ソファーから飛び降り、カミュスの前に立つ。


どうした?というようにカミュスが私の方に身体を寄せる。

「頭をなでてあげたいけど、手が届かないわ」

私の言葉にカミュスは目を瞬かせた。そしてとても優しい笑みを浮かべる。

うう、かわいい。

大の男の人にかわいいも何もないのだが、思わず心の中で思ってしまった。


カミュスは目の前に立っていた私の脇の下に手を差し入れると、そのまま高く持ち上げる。

「ひゃっ!」

「心配してくれるのか」

「今の私には……あなたしかいないもの」

「そうだな。」


カミュスは自分と向かい合わせるように、私の身体を自分の膝の上に下ろした。

「ひええ、近い」

「ありがとう。テラスティーネ」

彼は、私の脇の下から手を外すと、そのまま両手を私の背中にまわし、ぎゅっと抱きしめた。


私はようやく届いた手で、目の前にあるカミュスの頭をなでてあげたのだった。


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