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第2話 第一夜の2

この世界では人が魔力を持つ。

人はみな魔力をもって生まれるらしい。

その魔力量は個人の資質によるとのことで、資格としても魔法士があるそうだ。

魔法士になるには一定の魔力量と免許が必要で、魔法士にならないと大っぴらに魔法が使えない。


カミュスもそして記憶のない私、テラも魔法士であるらしい。


「私も魔法が使えるの?」

「むろん」

彼は紅茶を口に含んだ。お菓子はクッキーらしい。私も口にクッキーを入れる。

口の中でほろりと崩れる。とてもおいしい。


「魔法士と認められると、手にその証である証石を埋め込まれる。その証石を介さないと魔法の発動はできない」

彼は右の掌を開いてこちらに向ける。見る限りは特に変わったところはないが、ここに石が埋まっているのだろうか?


カミュスが口の中で何か呪文のようなものを唱えると、掌の表面に円形の水晶のような石が浮き出てきた。

「!」

「これが証石だ。普段は見えない」

「触ってみてもいい?」

少し考えるように黙った後、頷くカミュス。


触れてみるとふわっとした温かさを感じた。先ほど掌をかざされた時に感じた頬の温かさと同じだ。

その温かさが心地よくて、すりすりとなでていたら、もういいかと彼の低い声が響いた。

カミュスの顔を見ると、何かをこらえるような、苦々しい顔をしている。若干目尻が赤い?


私はあわてて手を離した。

「ごめんなさい。痛かったりした?」

いや、問題ない。と、彼は右の掌を自分の胸に引き寄せ、握りしめる。


「私にもあるはずよね?」

自分の小さな掌を見てみるが、何かが埋まっているようには感じられない。

「魔力が奪われて、記憶も失っているようだから、今は顕現できないかもしれぬ」


「魔力って奪えるものなの?」

「通常はできない」

奴ら以外は。カミュスは頭を振って、ソファーの背もたれにぐったりと身を預けた。


「この世界には、魔人と呼ばれる人とは違う種族がいる。その内、より魔力をもち、力の強い者を魔王という。人と魔人はそれぞれ別の種族であり、交易はあるが所在が異なる。通常関わりを持つことはないのだが、魔王は気まぐれに干渉してくることがある」

私はその内の一人に目を付けられている。とカミュスが続ける。

「魔王は魔力を奪うことも可能。テラはまきこまれたのであろう」

「それって、あなたのせいで魔力を奪われたということ?」


「奴は……綺麗なものが好きなのだ」

私は彼の言葉にあんぐりと口をあけた。

「ときどき私と行動を共にしていたことで、君も目を付けられてしまったのかもしれぬ」

たぶん、その容姿が気に入って、身体と魔力を奪われてしまったのではないかと、カミュスは言う。


「奪った身体を使って自分の近くにはべる自動人形でも造っているのだろう」

「それってひどい!」

「取り戻しに行くしかなかろうな」

彼は大きく息を吐いた。


「私の目的も同じであるから付き合おう。もともと巻き込んだのは私ゆえ」

それまでは私の夢の中にいればよい。とカミュスはさらっと告げた。



「代わりに頼みがあるのだが……」

巻き込まれたとはいえ、私の身体等を取り戻すと言ってくれたカミュスに、できることがあるなら、力を貸さなくてはならないだろう。

「何かしら?」

「君の目を貸してほしい」


「?」

「先ほど目的は同じであると言ったであろう。私は奴に瞳の色を奪われたため、視力がとても弱くなっている。しかもちょっとした光でもまぶしく感じるので、目を開けていられない」

彼は自分の瞳を指さした。

綺麗な赤い瞳だ。


「この目は元々のものを再現したものだ。ここは私の夢の中だからどうとでもなる。現実では、先ほどのように両目を布で覆い、魔力感知を目の代わりに使っている」

だが、常に魔力を消費するので、疲れるのだ。とカミュスは言った。


「それに魔法を使う時に、魔力が足りないということも起こりうるかもしれない。まぁ、魔力量は多い方なので、今までで困ったことはあまりないが」

「ここから動けそうもないので、別にいいけど、どのように目を貸せばいいの?」

彼は私の両目にかぶせるように右の掌を当てた。

何かがずわっと掌に吸い寄せられた気がする。

目を覆っていた手が取り除かれる。私の視界に変わったところはない。


カミュスは天を仰ぐように顔を上に向けていたが、私の方を向いて、閉じていた目を開けた。

「どうだ?」

「瞳の色が……変わった」

カミュスの瞳の色が赤から紫に変化している。

「見えるな」

彼は目の前で手の指を折ったり伸ばしたりして、視界を確かめている。


「私が夢から覚めた時に、君がどのような状態になるのかが気がかりだが。。寝てしまうとしても目は借りたままになるだろう。私の夢に入り込んでいる状態なので、私が起きている時には多分回復のために寝てしまうのではないかと思う」

「カミュスの姿が薄くなっているような……」

「目が覚めそうだな。続きはまた次に会った時に」

徐々にカミュスの姿が薄くなる。


「まだ聞きたいことがたくさんあるのに」

「すぐ会える」

カミュスが口の端を上げ、私の頭を撫でた。

カミュスの姿が消えると同時に、私の瞼も重くなり、意識がぷつりと切れた。


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