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第12話 ドタバタの朝

 目が覚めると眠っているフランツの姿が目に映った。


 真っ赤だった身体はいつもの小麦色の肌に戻っている。


 残念ながらいつの間にか抱きしめていた身体は離れてしまっていたが、それゆえにしっかりと観察できる。




 日焼けしていながらしっとり、すべすべした肌で、ウォーリアとして鍛え上げられた肉体。


 とはいえ、決してマッチョというわけではなく引き締まった体つき。


 そして何より、王子様を彷彿とさせる美しい金髪と整った顔立ち。


 今はまだ閉じられている瞳も碧眼で美しく、まだ少し幼い顔立ちなこともショタコンとしてはポイントが高い。


 思わずいつまでも眺めていたくなる姿だが、このまま目を覚ますと何があったんだと驚くだろう。


 眠っている間に服を着せてやったほうが安全だと感じ、少し身体を起こして服を着せてやる。


 幸い、昨日泥酔していたからか目を覚ますことはなかった。




「にーちゃん、起きてる~」


 フランツに服を着せ終えたタイミングで、リカードがいつも通りノック無しで突然入ってくる


 危ない、もう少し早くに来られていたら半裸のフランツを眺めている姿を目撃されるところだった。


「あれ~、フランツがまだ寝てるなんて珍しいね~。昨日、飲みすぎちゃったからかな~」


 リカードが眠っているフランツの顔を覗き込む。


 そのまま、ほっぺをムニムニしている。


「フランツって普段はキリッとしているけど、寝てると結構かわいいね~」


 そう言いながら今度は頭を撫でている。


 何の下心もなく、純粋にスキンシップが取れるリカードが羨ましい。


 とはいえ、フランツの眉間にシワが寄ってきたので後ろから羽交い締めにして引き剥がした。


「え~、もっとお触りしたい~」


 暴れるリカードの頭を、今度は私が撫でてやる。


 リカードの場合、子ども感が強くてあまり抵抗なく撫でることができる。


「あんっ」


「え? どうしたの?」


 思わず撫で続けているとリカードがおかしな声を上げる。


「耳は……敏感なんだよ~」


「あ、触っちゃったのか。ごめんね」


 人間だって耳はそれなりに敏感だし、狼族のリカードはさらに敏感なのかもしれない。


「でも、にーちゃんなら触っても良いや。もうちょっと触って?」


 こころなしか、顔を赤らめながら上目遣いでそう言ってくるリカード。


 いつもの単に子どもっぽいだけの表情ではなく、そこにはどこか妖艶なものが含まれているような気がする。


「ん……んっ……んんっ……あっ……やんっ」


「ちょっ、リカード? 大丈夫?」


「あっ……へ……平気だよ~」


 リカードのリクエストに応えて優しく耳をいじっていると声を出さないようにしていたリカードが、耐えかねたように甘い声を出して脱力する。


 抱きとめて声を掛けると力が抜けたような感じで返事が返ってきた。


 顔は赤くなっているし、こころなしかぐったりしている感じがする。


 これは思った以上に耳は触ってはいけない場所のような気がしてきた。


「ごめんね、リカード。ちょっと調子に乗って触りすぎちゃったね」


「ううん、おいらがお願いしたんだもん。にーちゃんに触ってもらえるの、おいらは幸せだよ~」


 リカードが私に身体を預けたまま、顔を上げて笑顔でそう答える。


 純粋無垢という感じがして非常にかわいいが、リカードが無垢だということをこちらが意識しておかないと危険な気もする。




「いつになったらフランツを起こしてくるのさ」


 リカードが帰ってこないことに業を煮やしたのか、開いたままになっていた入口にレイが現れる。


「午前中に村を発って神殿に戻るよ。依頼完了報告とか報酬を使って買い物とか、やることはいっぱいなんだからいつまでも遊んでないでよね」


「りょ~か~い」


 レイの言葉に反応したリカードがフランツのベッドに飛び乗る。


「フランツ、朝だよ~」


「うわぁ! っ! あいたたた……」


 先程のような優しいタッチではなく、思いっきりグリグリとほっぺを触りまくるリカード。


 フランツはたまらず飛び起きるが、二日酔いなのか頭を押さえて苦しがる。


「おはよう、フランツ。水を貰ってくるから、無理しないようにね」


 朝からドタバタではあったものの、朝食を頂いてからすぐに村を出発することができた。


 帰路も魔物に襲われることなく、みんな初めての冒険を成功させた喜びを噛み締めながら無事に神殿にたどり着いた。




 ゲームと同じであれば経験を得た私達は神の祝福によりレベルアップし、新たなスキルを獲得することもできるだろう。


 そして、レイの言うように報酬を使って買い物を行い、新たな依頼を受けるための準備をすることになる。


 何はともあれ、一つの冒険が幕を閉じるのであった。

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