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覇業の2 大賢者ソイソス

バーべ宮殿に到着したオレは、帝国軍の兵士達に最敬礼で迎えられた。


「グリル殿下のご帰還―! ご帰還―!!」


 声のデカい兵士がオレが帰って来た事を伝えると、帝国軍の血気盛んな兵士達が歓声を上げた。


 うん、これこそまさに悪の帝国の兵士のあり方だよな。

 昔の特撮とかでエンディングの悪の軍団が総登場するシーンとか公式配信サイトで見てカッケー!!って思ってたんだ。

 だからオレがその迎え入れられる立場って、マジで最高だな!!


「グリル殿下、よくぞお戻りになられました。我ら一同殿下の御帰りを、首を長くして待っておりましたから」


 いや、この宰相ビーガン、確かゲームでボスとして出て来たよな。

 その時の姿は首の長い魔獣の姿で、キリンみたいとかいわれてたっけ。


 そいつが首を長くして待っていたと言ったらギャグにしかなんねーんじゃないの?


 まあ今のところは、このビーガンはオレの敵ではないが、帝国の転覆を企んでいる奸臣には間違いない。だからコイツの言う事は話半分程度にしておいた方が良いだろう。


「うむ、出迎えご苦労。オレは無事、成人の儀を終えて来た!」

「うおおー、流石はグリル殿下」

「今は亡きフランベ皇帝もさぞかしお喜びになることかと!」

「ガスバーナ万歳! オーブレンジ帝国に栄光あれ!!」


 兵士達はオレが成人の儀を済ませたというと大喜びだった。

 まあ実際にオレの手には令呪が刻まれ、魔物を自らの僕にしたわけだからな。


「ところで殿下、先程から隣におるその娘はいったい?」

「この娘はオレの戦利品だ、イフリートに捕らわれていたのをオレが助けてやった」

「おお、なんと慈悲深い、まさにグリル様こそ覇王の器だ」


 まあ、実際のとこ、オレはチート級の炎の魔法を使いこなせるんで、イフリートなんかに頼らなくても極大火炎魔法は使えるんだけどな。

 今までは無能のふりをしていたが、皇帝と他の後継者亡き今、わざわざ隠す必要もない。

 つまり、オレが氷のポンコツ魔族と契約を結んだからと言って氷の魔法は使えないが、火の魔法の能力が激減するわけではない。

 だからイフリートは姿を見せられないが、その魔力は使えると言えば大半の帝国民を黙らせる事は出来る。


 しかし、このままではまだオレの覇業を成し遂げるには圧倒的に足りない。

 だからオレはある人物を仲間にする事を考えた。


 そう、大賢者ソイソスだ。


 大賢者ソイソスは、ドラゴンズ・スターⅥの中でも圧倒的人気キャラで、見た目の幼さに対し、チート級の魔法を次々と使いこなす究極の大魔法使いだ。

 舌足らずのしゃべり方にその体から放たれたとはとても信じられない最強の魔法の数々、それはまさに、うわっようじょつよい! そのもの。


 オレはその大賢者ソイソスがどこに住んでいるか知っている。

 だから本編で主人公達に大賢者ソイソスが味方する前にオレの側で仲間にしてしまおうという計画だ。

 彼女がオレの仲間にいれば、見た目の可愛さもだが、能力の高さでもやる気がMAXになる事間違いない!!


「殿下、この後皇帝戴冠の儀が行われます。速やかにお着替えを」

「中止だ!」

「へ??」

「中止だ、まだオレが皇帝になるのに必要な物がある、それを手に入れるまでまだ勝手に動くな、動いたものは処刑する」


 オレは皇帝、この国ではオレの言う事が全てに勝る、ビバ独裁国家。

 それにこのビーガン宰相、最初からオレに従う気なんて皆無、だからコイツにいくらおべっかを使っても煽てても無駄。

 戦国大名の野望で100段階中忠誠15みたいなキャラだ、誰がお前の事なんて信用するか。


「わ、わかり……ました、それでグリル様の戴冠式は、ご帰還の後という事で……」

「そうしろ、オレはまだやらなくてはいけない事があるんだ!」


 宰相ビーガンが青筋を立てているのはオレが見ても一目瞭然だ、コイツ、怒ったら顔が真っ赤になる。

 ゲームではモンスター化したビーガンを怒らせて真っ赤にさせてから攻撃を空振りさせて倒すのがセオリーだったので覚えてた。

 まさかそれがゲームのシステムだけでなく、実際にもそうだったとは。


 それよりも早く会いに行くぞ、待っててくれ、オレのソイソスたん。

 その舌足らずな口でオレに、たわけ! と罵ってくれ!!


 オレは胸をときめかせながら、大賢者ソイソスが住んでいるという山を目指した。

 途中でモンスターが何匹も出てきたが、はっきり言ってオレの敵じゃない。

 まさに強くてニューゲーム、むしろなんで本編のグリル皇帝がイベントとはいえ退場したのかワケ分からん。


 オレは並みいるモンスターを次々とねじ伏せ、ソイソスたんの住んでいる山に向かった。

 なにオレは皇帝だ、金なんて無くてもタダで何でも貢物してもらえる、だから手ぶら旅でも何の問題も無いはずだ!


「お兄さん、タダ食いは勘弁してもらえませんかね」

「何故だ、オレはグリル皇帝だぞ、ここは帝国の領地じゃないのか!? お前達は不敬罪になってしまうぞ」

「そういわれても、まさかそんな姿で皇帝ですって、アンタ、本物見た事あるのかい? 皇帝陛下なんて普通はお会いできるものじゃないんだから、そう簡単におばちゃんは騙されないよ。さ、メシ代がないならその分働きな」


 なーぜーだー!? オレは皇帝だと言っているのに村人は誰もオレが皇帝だと信じない。

 水戸のご老公みたいにわざわざ皇帝の印を見せてやっても、それが本物かどうかなんて村長ですら見た事が無いので本物だと思われていない。

 やはり皇帝くらいになると、誰かぞろぞろと部下を連れていないと誰も信じないのか?


 くっそー、失敗したな。

 お忍び旅だとこういう事があるのか、これなら少し重くても財布の中身を金貨MAXにして持ってくるべきだった。


 オレの苦労も知らず、チルドは冷たい飲み物を飲んで店のおばちゃんと楽しそうに話をしている。

 このアホ魔族、人の苦労も知らないで。


「オイ、出かけるぞ。村人が働けとかいうならそれじゃあ何かの肉でも取ってくるからな」

「わ、わかったですの、グリル様」


 一応チルドは令呪でオレに逆らえなくなっている。

 だからオレの言う事には絶対服従だ。


 さて、それじゃあ仕方ないので山に行って食料になりそうなモンスター肉でも確保してきますか。

 この村の近くの山にオレ達の目的であるソイソスたんもいるはずだからな。


 オレは山に向かい、モンスターを倒した。

 なんとあっけない、オレの持つ炎剣スルトはどんなモンスターでも焼き砕くほどのチートさだ。


 オーク、オーガーなんて目じゃない。

 もっと強くて美味い肉はいないのか?


 オレが山の奥に向かうと、そこには見覚えのある場所だった。

 やった、ここがソイソスたんのいる小屋だ、待っててくれ、オレのソイソスたん。


 オレがときめきながら小屋の中に入ると、そこにはしわくちゃのウメボシ婆あが座っていた。


「誰じゃ、ワシの家に勝手に入ってくるのは?」

「え? あ、貴女は……誰ですか?」

「あ? ワシがだれかじゃと? ワシこそが大賢者ソイソスじゃ、勝手に家に入ってくるでないわ、このたわけが!」


 ――詐欺だー!! なんでソイソスたんじゃなくて、ここにしわくちゃのウメボシ婆あがいるんだ!?


「あ、あの……貴女がソイソス様ですか、ひょっとして……お孫さんとかいませんか?」

「何を言うか、ワシは一人じゃ、魔導の道を究める為、この山でずっと一人で研究を重ねておったのじゃ」


 オレのテンションだだ下がりだ。

 それより何でここにいるのが可愛いロリババアではなく、偏屈そうなウメボシ婆あなんだ?


「まあいい、丁度良い所に来た、ワシの研究を手伝ってくれるなら、お前達に良いものをやろう」


 ウメボシ婆あのソイソス婆さんがオレ達に何か頼みごとをしてきた。

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