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ダンジョンは秒で無視される

 静かに、四郎は塔へと片手を翳した。他方、ヤルダバオートは挑発を続行する。


「さあオタリック地上大奮塔に入り、登るがいい。魔物だけがぎっしりと詰まったダンジョンを登頂し大魔王ウンゴリ・アンズ・ントを倒さぬ限り、ここからは出られんし太田も死ぬ。それがわたしの世界を脅かした罰だ! わはははは!」


「〝アルクビエレ・ドライブ〟!」


「は?」


 ドーン!


 呆気に取られる神をよそに、視認できる範囲の巨大な塔は跡形もなく消滅した。

 単純なエネルギーをぶつけた四郎は、涼しい顔で言及する。


「わざわざ敵しかいないダンジョンを攻略せねばならない道理はない」

 次いで視力を強化し、塔があった中心に目を凝らす。

「本当に、さっきのでは無傷な芯があるな。蜘蛛の糸程度の強度を人工的に再現できれば軌道エレベータも夢でないと語られたが、そんなレベルを遥かに凌駕している」

 その糸の伸びる先を見上げる。


「そ、そうとも」どうにか立ち直って、神が断罪した。「愚か者め。壊した塔は一部に過ぎんし、蜘蛛の巣はダイキュウノ中にある。きりがないぞ」


 よく観察すれば、先程の技で雲が退いた空の彼方には、昼の月のように見通せる巨大クモの巣さえあった。

 さらには、攻撃を感知したのか荒野を囲う大小様々な新たな蜘蛛の糸が地表からわき出、あるいは天から降り注ぎ、ドーム上に一行を覆おうとしだしていた。


「ど、どうしますのこれは!」

「蜘蛛に食べられるなんていやぁー!」

「糸なんて燃やしちゃえばいいじゃん♥」


 女神二人は怯えて科学者に両側から抱きつき、ホムンクルスは好戦的に指先へ炎を灯す。


「わたしにしか対処できんほどの強度がある、みなで行った方がよさそうだ」

 四郎は論決して、光速移動の影響力を仲間たちへと拡大。荒野にクレーターを築く勢いで共に真上へ飛んだ。


 瞬く間に大気圏を突破し太陽系内を飛びながら、彼はあらゆる感覚を強化して宇宙中の蜘蛛の巣を観察した。科学に魔法を組み合わせ、事象の地平線を超えて別の宇宙にも探りを入れる。


「ね、ねえ。どうにかなりそうなの?」

 不安がるリインカに、教えてやる。

「宇宙マイクロ波背景放射を中心に用いて探ったが、複数の多元宇宙にまで糸が及んでる。最強の魔王とは伊達でなさそうだ。光速では足りん、タキオン化しよう」


 茫然とする女性陣三人をよそに、決意した四郎は光の速さをゆうに超える。銀河群や銀河団、銀河フィラメントをも超越し、宇宙の果てすら跨ぎながら、すでに次の作戦を練りだしていた。

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