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友は秒で人質になる

「元世界でわたしを殺した犯人が、おまえだったということか」

 事故で死んだために転界へ送られたという認識が覆ることになる。その事実を、四郎は比較的冷静に受け止めた。


「まさしく」天からの声は認める。「そしてクローン技術も奪い、女神たちの創造にも役立てた」


「なんだと!」

 続く言葉に、四郎は先程よりも遥かに狼狽えた。


「……えーと」そんな反応をよそに、リインカは素朴な疑問を唱える。「順番おかしくない?」


 普通に考察すればそうだった。

 四郎は死んで初めて天界を訪れ、リインカはそこで彼を迎えた。なのに、女神たちを創造する技術にサイディズ一族の科学技術が使われていたとなると前後が逆だ。

 ところが、ヤルダバオートは言い切った。


「おかしくなどない。わたしは全能の神だ、時間の流れの影響など受けん」


「まずいな」

 科学者にして錬金術師は、戦慄の理由を明かす。

「こいつは論理的矛盾を超越できる全能者かもしれない」


「要領を得ませんけど、どう問題ですの?」

 メアリアンの問いに、四郎は答える。

「わたしが武器としてきた論理的科学的思考が通じないということだ。死にながら生きることもできるし、バカでありながら天才であることもできる。人間の思考に基づく宇宙の法則を利用した戦いが、通用しない可能性がある」


「ふっふっふ」

 最上位神は不気味に笑ったあと、やや沈黙を挟んで訊いた。

「……そうなの?」


「訂正する」科学者はほっと胸を撫で下ろす。「バカは変わらないかもしれない」


「ええい、能書きはどうでもいい!」

 ごまかすように、ヤルダバオートは早口で捲し立てる。

「貴様らは目前の塔、オタリック地上大奮塔ちじょうだいふんとうを踏破せねばこの異世界ダイキュウノからは逃れられんのだ! そこは知る限り最強の魔王、大魔王ウンゴリ・アンズ・ントの居城。奴の出身たるこの惑星はすでに滅ぼされ、全てが荒野と化している」

 思わず、地平線の彼方まで覆う砂と岩だけの大地を見渡す一行。神は、さらに絶望を浴びせる。

「宇宙まで延びるこの塔は、高さが一京光年ある。魔王は塔を伝って宇宙の果てまで支配しているのだ」


「そんな巨大質量の建築物が、星も崩壊させずに建っているだと?」


 外周はせいぜい直径百メートル程度の円柱だが実際天辺は窺えないそいつを仰いでの四郎の疑いを、ヤルダバオートは一蹴する。


「魔法を交えているといえば、たいていのことは解決するだろう」


「言っちゃおしまい感もあるけどね♥」


「なにより」

 クルスの指摘をスルーして、自称最上位神は継続した。

「大魔王ウンゴリ・アンズ・ントは蜘蛛の怪物でね。材質も太さも長さも硬度も自在な糸を最大の武器とする。それを張り巡らせ、宇宙中を支配するに至った。そんな糸が、オタリック地上大奮塔の芯にも使われているのだ。あまりにもトンデモなさすぎるのでな、倒せる者もいないだろうから長年放置していた。ここでおまえたちと相討ちになってくれれば望むところ。

 あと、もう一つ気づいたことはないかな。おまえたちを連帯責任として招いたのだが、誰か足りなくはないか?」


「?」

 全員互いの顔を見合わせて、頭上にクエスチョンマークを浮かべた。


「気付けよ!」ヤルダバオートがツッコむ。「太田拓がいないだろう!」


「……あー」


 みなが何となく納得すると、クルスは冷たく付言した。

「ざぁこ過ぎてすっかり忘れてた♥」


「泣くぞあいつ」

 脅した癖に同情したヤルダバオートは、気を取り直してさらなる脅迫をする。

「ま、まあ本音はどうかな。四郎・サイディズ、おまえを監視していて弱点を見つけたぞ。ダイハチノでクルスと戦わねばならないかもしれないと案じたとき、明らかに焦っていたな。仲間とは戦えんのだろう。それを確信して、太田の心の隙を、実生活での非リアぶりから生まれた負の感情を好む魔王ウンゴリ・アンズ・ントに与えて人質としてやったのだ!!」

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