結局ろくな情報は得られないまま会議は終わり、四郎はその建物、
室内にあった鏡台を確認すると、やっぱり外見も四郎のままだ。他からどう観測できるかは不明だが。
とりあえず本棚にあった書物や書類でざっとダイハチノのことを調べる。
どうやらこの世界は、
「こんなに同じなら異世界でなくてよくないか。
元世界とは根本的な成り立ちなどの異なる部分が多い異世界モノと比較して、平行世界は基本が同じだが何らかの可能性が異なるものだ。
例えば、歴史的な出来事がずれているとか、存在しない事物が一部だけ存在するとかである。それこそ、微弱な魔法があった場合の元世界はこんな場所な気がした。
ともかく、最も異なるのは第二次大戦の後半だ。
元世界では敗戦側となる
彼女はチナスが行っていた虐殺などを止め、独裁者となっていたチナ党党首のトヒラー総統を排除。
そこまでは、敵対していた元世界では先勝国である連合国側にも歓迎された。
ところが、
以降、そのままの勢いで彼女はイツドを掌握。新たにクルス・イツドと国名を変え、自らが独裁者として君臨。
元世界ではドイツが大敗を喫したソビエト連邦たるビソエト連邦に圧勝して、他国の攻撃も寄せ付けないまま半分以上を侵略。今に至るという。
一度クルスは新型魔法兵器の実験と称して月の四分の一を魔法で消し飛ばしたそうで、各国は開発していた原子爆弾を遥かに上回る威力にショックを受け、核兵器の実用化は停止されたらしい。
ために原爆は落とされず、イツドに恐怖した大本日帝国は沖縄に該当する
今は西暦でいうところの1950年だという。
そういったことを可能にしているのは、クルスが有する前代未聞の魔法力らしい。世界征服を明言してもいるそうで、魔王を名乗り、異世界ネットでもすっかり魔王認定である。
「ヤバいだろ、なにやってんだあいつ」
最新の歴史書を閉じるや、確認した現状に四郎は頭を抱えた。
入り口のドアがノックされた。
「サイディズ四郎中将、
先程の会議で、最初に声を掛けてきた女将校だった。元世界の旧日本軍の知識による身なりからすると、彼女は少将だ。
警戒しつつも、四郎は扉をやや開けて対応する。
「ど、どうかしたのかな少将」
すると相手はしばし視線を衝突させたあとに切り出した。
「……異世界転生に心当たりは?」
ボソッと囁いてしばらく待つ。
「あ、はは」上官がぎょっとしていると、やがて照れ臭そうに離れようとした。「すみません、勘違いしてしまったようで」
数メートル離れたところで、四郎は慌てて呼び止めた。
「待ってくれ。君は、異世界転生を知っているのか?」
彼女はゆっくり振り返ると、嬉しそうに述べた。
「やっぱり中将もそうなのですね。わたくしがここに来たときと、様子が似てらしたものですから」