「それよりも」
家主は、いったんネット以前に操作していたウィンドウに戻して話も切り替える。
「このデータの方が不可解だ」
そこには、スリーサイズが載っていた。
リインカとネーションとクルスとイキテレラの。
「なんのデータ取ってんだおのれは!」
さすがに蹴り飛ばされる四郎だった。
「ま、待て」
椅子ごと床に倒された科学者は、どうにか弁解する。
「誤解するな、たぶん一部にしか着目してないだろ。よく見ろ」
言われて、女神は画面を改めて観察してみる。
本当にそれはごく一部で小さく載っているのみ。身長体重や生年月日や血液型もあったがそれも小さい。キモいが。
比較して大きく記録されているのは、染色体やら塩基配列やら遺伝情報やらだ。いろいろな数値があるが、三人に共通する部分だけ色を変えて強調してある。
あまり頭のよくないリインカでも首を傾げた。
ネーションと自分の一致ならわかる。神なのに生物的な双子の類似というのも変だがそこは置いておく。
クルスとイキテレラとも似通っているのが謎である。百歩譲ってイキテレラは転界の女神としての共通点を見出だせても、ホムンクローンに到っては赤の他人だ。
「異世界ダイナナノの全情報を知れるラプラスの魔を創造したとき、ダイナナノ内にいたためにおまえたちの詳細も判明して違和感を覚えたんだ」
四郎は椅子ごと起きて、さらに別のウィンドウを開きながら解説する。
そこには自身のデータが表示されていた。
やはり身長体重などの基本は小さく、遺伝情報などは大きく記されている。おまけに、先程の共通項と同じ色分けがされている数値があった。
彼はサイズを調整して、リインカたちと自分の画面を並べた。
「異世界ダイヨンノで男ばかりのゴブリンと戦ったときに言ったな。ミトコンドリアDNAには、母親からしか受け継がないものがあると」
マウスのカーソルで、四郎は五人に共通する数値を示す。
「わたしはクローンだから、ウィリアム・ジェイムズ・サイディズ一世の母からそのままそれを継いでいる。これが、おまえたちにも含まれているんだ。おそらく、メアリアンも同じなのではないだろうか」
「ど、どういうこと?」
戦慄するリインカに、科学者にして錬金術師は核心を述べた。
「おまえたちは、初代ウィリアム・ジェイムズ・サイディズからわたしまでのうちの誰かの、何らかの形でのクローンだ」
衝撃が駆け巡る沈黙の間を挟んで、四郎は呆然とする女神をよそに語りを再開する。
「……特にわたしとの関係が深かった場合、これまでご都合主義で片付けてきた問題も説明がつきそうだ。わたしの生きていた時代と場所である、21世紀前半の日本の一部で流行っていた異世界モノに似た転生転移ばかりだったりする点などでな」
「き、共通点はわかったけど」
最初の衝撃を乗り越えて、どうにか女神も言葉を発する。
「結局、どうしてそんなことになってるかは謎じゃない?」
「だから転界でも迂闊に手を出せず停戦にも応じた。おそらく不思議を解く鍵は、あの最上位神とやらが握っているのだろう。なぜかクルスも女になりおまえたち転神も女神ばかりだというのに、奴は彼と呼ばれ声も低く男のようだった」
「うーん」女神は四郎のように顎に人差し指を当てて考える。「あたしも知り合いも直接会ったことはないけど。みんなからはそう思われてたわね」
「そこで、新たな頼みがあるんだが――」
と言い掛けた四郎を、リインカは怖い笑顔で制した。
「――の前に、スリーサイズとかの情報はいらなくない?」
「あ、ああそうだな。謎を解くヒントになるのではと念のために記録していただけで、意味はなさそうだから消しておく」
慌ててそれらのデータを削除する科学者に、女神は追及する。
「あと、あたしたちのそれはあのときダイナナノにいたからラプラスの魔で知られたと一億歩くらい譲っていいとして。クルスちゃんのはどうやって知ったわけ?」
「……あいつはわたしに柔順だからな、直に測らせてもらった」
「変態がぁー!」
ぼそりと答えた四郎は再び蹴られて、部屋の隅までぶっ飛んでいった。