「いやあ四郎氏、今度はてよだわ言葉のお嬢様メイドですか。素晴らしい趣味ですな 」
メアリアンを転界に帰してから数日後。
自宅のダイニングキッチンでテーブルを囲み、錬金術師はオタクから称賛されていた。
「え~、ピザデブってばまた萌える対象変えるの? このクルスちゃんを差し置いて♥」
からかったのはホムンクローンだ。
「うひょう!」太田が眼鏡のブリッジを忙しなく上げ下げして喜ぶ。「それは脈ありということでよろしいのですかな!?」
「あるわけないじゃん、ちょろ♥ 本気にしてやんの、やっぱざこね。ざぁこざぁ~こ♥」
「ふひひひひ、これは手厳しい」
クルスにぺしぺし叩かれながらも、オタクは嬉しそうに卓上真ん中にある大皿からクッキーを頬張る。
メスガキホムンクルスが初めてこのお菓子を手作りしたので、四郎はいちおう友人たる彼らを呼んで振る舞ってみたのだ。ダイイチノでは水晶玉を携帯電話みたいに使え、女神たちが魔法でそこに接続できるので連絡は楽だった。
丸や四角や三角型のクッキーの味も上出来。紅茶を飲みながらの、さながらお茶会状態だ。
一人、招いていないはずの客がいるのだが。
「でメアリアン、おまえはなぜ来た?」
来訪するや有無を言わさずおしゃべりと食事に興じだした友人たち。その騒ぎで流されていたが、僅かな合間ができたのでようやく四郎は尋ねることができた。
まさしく、なぜかリインカはメアリアンを連れてきたのだった。みんな長引くアニメや漫画のキャラみたいにだいたい同じような服装だったが、彼女も例外でなく、前回のようにぼろくはないが綺麗なメイド服を着ていた。
そのメイドもどきは、上品な動作ながらたくさん頬張りつつ述べる。
「あまたもつふしで、こんぼはちゃんぼいせかにつぶしてなぶためでむわ」
「飲んでからしゃべれ」
アドバイスに応じて紅茶で流し込むと、彼女は言い直した。
「……あなたを通じて、今度はちゃんと異世界について学ぶためですわ」
「転界で学べ」
「転界で学んだ結果が前回ですのよ」
「まさか」四郎は一笑に伏す。「勉強の仕方に問題があるのではないか。異世界専門の神々が住む転界でわたしからより学べないわけ……」
紅茶を啜ろうとして、視界にリインカが入る。
「あるかもな」
「なんであたし見んのよ!」
テーブルを叩いて立ち、抗議する駄女神だった。
「で、リインカよ」四郎は探りを入れる。「メイドを連れて訪れたということは、今日そんな教育をさせるつもりか?」
「そ」女神は座り直す。「こないだの第四異世界ダイヨンノの件で納得したでしょ。あたしたちもちゃんと世界を救ってるってことに。元の仕事に戻ってもらうわ、そのついでにね」
「あの世界が救われているかは怪しいが、後は住人の問題か。どうにせよ、やることを勝手に増やされてこちらにメリットがあるとは思えん」
「手伝ってくれるなら、アルクビエレ・ドライブはもう貸しっぱなしでいいみたいよ。よく考えたらオタクは魔王がいなくてもユニークスキルそのままだし、あんたなら悪用しないだろうって転界は信用したみたいね。変なことに使ったら即没収だけど」
「うーむ。日に一度全宇宙の100億倍のエネルギーが使い放題か。錬金術や様々な研究が捗るが……」
顎に手を当てて彼は考える。
「そちらが信用してもこちらは疑わしい。転生転移者の助力を得ず救った世界とやらは、一例しか目にしていないんだ。母数が乏し過ぎる」
「でしたら、ちょうどいいですわ」
紅茶を飲み干して、メアリアンは喜々として訴える。
「また転界神が救った異世界を、見学に行く予定ですの。今回は下調べも万全、ダイイチノみたいなファンタジー要素強めな世界ですから。その名も――」
「どうせ第五の異世界ダイゴノだろ」
「「!!」」
科学者が先読みすると、女神たちが真底仰天した。
「ま、まだアルクビエレ・ドライブは渡してないのに?!」
戦慄するリインカ。同様にメアリアンがほざく。
「錬金術は読心術にも通じていますの!?」
家主は一言発する他なかった。
「おまえら、やはりバカだろ」