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リアルな異世界は秒で荒廃する

「確かに、ここには魔王などの脅威がないようだな」


 ダイサンノ異世界から帰還して数日後。

 四番目の異世界ダイヨンノに一人案内された四郎は、薄汚れた木造ベンチに掛けて隣のリインカに感想を洩らした。

 麗らかな小春日和。小鳥が行き交う青空の下で、目前には彫刻をあしらった噴水がキラキラと水飛沫を上げている。


 前回ダイサンノ異世界を滅ぼした魔王アースライムの件で、四郎の抱いた不信感を放置できなくなった転界による計らいだった。すでに転界の神々によって救われた世界を披露することで、転生転移者の力を借りずに普通に救済したところもあるんだぞと示して信頼回復に努めようとしているそうだ。


 そこで、科学者も容赦なく尋ねることにする。


「光速で飛び回って一通りダイヨンノを調べたが、かつて世を恐怖に陥れ人々を迫害していた魔王は勇者に倒され、魔王軍に属する魔族のようなものもいなくなったという歴史もちゃんとあるらしい。

 しかしここにおける魔王や勇者とは、転界にどう関係するんだ? 転生や転移で世界を救う勇者は、転界の神々が魔王になったときに派遣されるはずだったな」


 隣に掛ける女神は、やけに居心地が悪そうに答える。

「そ、それ以外の魔王はよその異世界からの侵略者で、勇者はあたしたち転界の神々になるのよ」


「なるほど。その世界の摂理を歪めるのが異世界の者たちならば、転界が直接手を下してもいいというわけか」


「そ、そうね」


「すると、別の異世界から来た魔王というのは何者だ?」


「い、いろいろよ」リインカは指折り数える。「自力で異世界転生転移魔法を使える種族や、転界以外の神々。あなたの元世界みたいに魔法よりも科学の世界からも、発展の末に異世界への移動技術を開発して侵略に乗り出した連中とかもいるわ」


「ほう。わたしはたまたま中世ヨーロッパファンタジー的異世界を救うのを任されただけで、異世界という可能性を考慮すればそういうこともあるわけだ」


「え、ええ。ここみたいに、そんな危機からあたしたちが救った世界もいっぱいあるわけ」


「なぜそうした脅威から救われた数ある異世界から、またも中世ヨーロッパ的なここを紹介の場に選んだ?」


「こ、このダイヨンノを救ったのは勇者として転移させられたあたしの友達の下位女神でね。そのあとも『異世界でスローライフを送りたい』って希望して残ったっていうからちょうどいいかなって」


「そうか、では」


 すくっと四郎は立ち上がった。

 彼の座っていたベンチには、尻で隠された穴が空いていた。

 踏み出した先の石畳は砕けていて、眺めていた噴水は反対側がほぼ崩れていた。

 見渡す街は城壁に囲まれた典型的な中世都市で、建物はいくつか崩壊している。煙もちらほら窺え、悲鳴や怒号もたまに聞こえ、蛆のわいた人の死体も複数転がってネズミが徘徊していた。


 そんな光景を見回して、彼は疑問を投げた。


「なぜ、こんなに荒廃しているんだろうな。わたしは調べて既知のことだが」

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