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けどやっぱり最強スライムも秒殺する

「し、失敗って」リインカは動転した。「あんたが認めるなんて、らしくもない!」


「勘違いするな」

 ところが、しれっとして四郎は答える。

「科学の発展に失敗はつきもの、わたしもそれで命を落とした。だが、今回は主語が違う。失敗したのはあいつだ」


 見る間に巨大化していくアースライムへと顎をしゃくる。

 月を飛び立ち、仲間たちと共に敵から常に一定距離を保ちつつ後退しながら。


「お、拡大が止まったようですぞ」

 やがて太田の分析を受けて停止した四郎は、さっそく尋ねる。


「オタク、奴が最初に会った時から変化した大きさはわかるか?」

「〝εὕρηκαエウレカ〟。ええそのくらいならば見抜けますな。最初は1万2742㎞くらいの直径だったのが、今は13万2521㎞程度の球体になってます」

「地球サイズから土星と木星の中間くらいか。内部構造はスライムと同じ、ならば……」

 脳内で計算を始める科学者。


 そこに、魔王アースライムは吼える。

「無駄にしゃべりおって!」

 その肉体は、大きくなる以外にもゆっくりとした速度だが蠢いてもいた。

「すぐに殺しに行けんのが残念じゃが、お前たちは指をくわえて傍観しておるしかなかろう。わしがじわじわと、宇宙を果てを、転界までをも取り込み支配下に置くところをな!」


「なにあいつ、こっちに近づいてんの? おっそ、やっぱざぁこ♥」

 嘲笑うクルスに、オタクは教える。

「ふひひ。防御と吸収に盗んだ魔法力を全振りしたようですからな。他の性能はスライムですから、進攻速度も人の歩行程度なままなのでしょう」


「間違いない」

 暗算を終えて、四郎は断言する。

「アルクビエレ・ドライブから吸い取ったのは、正確に拡大した分だ。E=mc2、質量とエネルギーは等価だからな。最初がおよそ地球サイズだったのも、異世界に該当する星を吸収していたからだろう」


「そ、それがわかったとこでどうなるの!? あいつの〝アイギスの盾〟の限界は不明で、宇宙の100億倍の攻撃を吸われたら宇宙の100億倍のスライムになるかもってだけでしょ!」


「そこでお前たちに頼みがある。この作戦にはアルクビエレ・ドライブの魔力への変換が必要だが、科学者としてまだ魔法の扱いは不慣れでな」


「え~、どうしよっかなぁ♥」

「なんでござろうかね」


 リインカの危惧をスルーして、創造者は被創造物たる人造複製ホムンクローンと、オタクへと作戦を打ち明けだした。


 アースライムは、太陽系でいうところの月も吸収しだす。さらにその分大きくなりながら咆哮を上げた。

「いいかげん負けを認めたらどうじゃ!」


「冥土の土産に教えろ、魔王」

 何らかの相談が終わり、惑星スライムと対峙する四人。中で、静かに四郎が口を開く。

「貴様と上位神の目的が知りたい」


「わはは、ついに死を覚悟したか」

 魔王アースライムは、上機嫌になって告げる。

「わしはスライムマニアなのだ! 担当していた異世界ダイサンノ宇宙を観察する内に、全てをスライムで満たしたくなったのよ!! 上位神の目的は、そんなわしを倒すことじゃろう。おかしなことを言うな。それができずに、貴様らは死ぬのだが」


「く、くだらない」


 呆れ果てるリインカを置いて、話の途中で四郎は魔王に両手の平を向け、冷酷に唱えた。


「無知か、役に立たんな。では自白を冥土の土産に持っていけ。〝アルクビエレ・ドライブ〟」


 無数の宇宙を破壊するエネルギーが、極太の光線となって彼から放たれた。

 光は、真っ直ぐ標的へと直進する。


「バカめ!」的は勝ち誇る。「ユニークスキルも上位神から与えられた神魔法、同じ神々から盗んだ〝アイギスの盾〟を侮りおって。転界でお前のデータも盗み見たぞ。即死魔法だろうが全力だろうがわしは貫けん、吸収しきってやるわい!」


「今ですクルス嬢!」


 太田がエウレカで光線の位置を確認しながら合図する。


「〝お願い致します、クルスお嬢様〟でしょう? ピザデブ♥」


 などと文句を言いつつも彼女も魔法力を注ぎ、アルクビエレ・ドライブを操作。

 エネルギーは、標的に当たる寸前で拡散。球形に変化してスライムを包み込んだ。


「ん? なんのつもりじゃ?」


 魔王はない首を傾げた。

 白みがかった光は半透明で、白球の内部にやや小さな青い球が入っているように外からは観察できる。


「わしを閉じ込めたつもりか、体表から徐々に取り込んでやるまでだ……がばばばば!?」


 台詞は途中で悲鳴に転じた。

 目に見えて、スライムの身体が縮小しだしたのである。白光外側のサイズはそのままに。

 中身のさっきまでスライムの肉体だった部分は光に置き換わっている。魔物が縮むのに反比例して、光が内部の面積を増やしているような感覚だ。


「おっ、よくわかりませんがやりましたな」

「わ~、無駄にでかいざぁこがお似合いのざぁこになってくみたい♥」

 太田とクルスが歓声を上げる。


「光がスライムを圧縮してるの!?」


「浸透圧を変えただけだ。太田はスライムの脅威度をネズミ程度としたが、構造はナメクジだな。ハジマリノの図書館で調べて解剖してみた限り」


 女神の見解を、四郎は訂正した。


「なにそれキモい。じゃなくて、つまりあの白い光は塩とか?」


「アホめ」

 見下しながらも、肩を落として科学者は解説する。

「本物のナメクジなわけがない、比喩だ。ナメクジは半透膜で覆われている。故に体表で塩の濃度が高まると、薄い体内から濃い体外に水分が移動する圧力を生む。かくして体液を失って縮む。

 スライムは魔力を水分代わりにしたような魔生物で、魔力だけを通すある種の半透膜に覆われている。そして異世界にはありふれた魔力には、属性の威力、即ち濃さに浸透圧のようなものが生じると研究の結果判明した。アルクビエレ・ドライブによる属性濃度の濃い魔法で包むことで浸透圧差を生み、奴の体内からそれを排出させたわけだ。今回は観測しやすく光属性でな。奴も内側からの攻撃も防ぐとは口にしなかったろう」


「「「……」」」


 彼以外の三人は知ったか顔で静聴していたが、誰もよく理解していなかった。


「……だばばばば~、マイスライムドリームが……ばばばば~……」


 絶叫と共に、魔王アースライムはどんどん縮小していく。

 土星サイズ、地球サイズ、月サイズ、小惑星サイズ……。やがて一般的なスライムすら下回る小ささになり、視認できなくなり、第三異世界ダイサンノから消え去った。

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