地下でのひと悶着があったあと、一階のダイニングキッチンで四人が木造テーブルを囲んで昼御飯を食べていた。
メンバーは四郎、リインカ、エプロンドレスに着替えて髪をツインテールにしたクルス。そして、テイクアウトの吉○家チーズ牛丼の買い出しを頼まれたオタファッションの〝オタク〟だった。
ちなみにオタクはあのあともめげずに異世界転生転移テストへの協力を申し出たので、手っ取り早い人材として採用されてダイイチノに定住していた。
典型的な異世界モノ要素で構成されるこの世界では彼の知識が役立ち、冒険者ギルドに登録したあと未開拓地域などの研究分野ですぐさま功績を上げ、注目の新人冒険学者と認知されだしている。
彼は転生でなく転移なため元世界との行き来も許され、時間調整も可能な転界神たちを介して、たまに現世が恋しくなった四郎に頼まれてこうした要望にも応じていた。いわばパシリであるが自覚はない。
「でね、吉○家行ったんですよ吉○家。そしたらもうなんか人めちゃくちゃいっぱいで入りにくかったんですよ。んでよく見たらなんか垂れ幕下がってて、200円引き、とか書いてあって混んでたのね」
「牛丼はうまいが、何十年前のコピペだ」
食べながらくっちゃべるオタクに、ツッコむ四郎だった。
「買ってきてくれたんだから、まあいいじゃないの。やっぱ牛丼もおいしいわよね」リインカが頬張りながらフォローする。「奢りだっていうんだから遠慮なくいただくわよ、あたしは」
「奢ったのはわたしだ。というか貴様は前にも食ったらしいな、転生転移を担当する以外にも元の世界をうろついてそうだ」
黄金はやたら生み出せるで、日本円への換金を経て代金を払ったのはそう述べた錬金術師だった。
「にしても」空気を読まずにオタクは切り替える。「ツンデレ美少女の次はメスガキ幼女とか、四郎氏もやりますな」
「えーなに。ピザデブパシりもロリコン? ざぁこざぁこ♥」
すかさず言葉の針を刺すクルスであった。
「ぶひぃ、そうした罵りは慣れていますのでな。ノーダメですぞクルス嬢。むしろご褒美かと。いちおう、拙者には
略してオタクなので、基本的に未だオタクと呼ばれている彼である。
「ふーん、じゃあ痩せてみなよ♥」ホムンクルスだけは別だった。「そしたらチー牛って呼んだげるから♥」
「ふひひひ、ふかぬぽぉ。実際ダイエットしたらそうなるかもですな。まさかそういう意味を兼ねてチー牛をリクエストされたのですかな、四郎氏?」
「こないだは豚肉を食ったんでイスラム教関連ではなさそうだからな、ヒンドゥー教関連なら牛に抵抗があるかと怪しい女神の所属を試す意味も……いや。単に食いたくなっただけだ。誤解を招いたならすまない、これでもわたしはおまえに一目置いている。主にメンタルの強さでな」
実際そうであった。
なにせ一回、太田は死んだのだ。前回の宇宙空間への転移によって。
いきなりそんな目に遭ってなお異世界への情熱が揺るがない彼を、四郎は素直に尊敬していた。歳的には上らしいが威張ったようなところがないのも好印象だ、クルスにもへこへこしている時点で明らかだが。
「ところでリインカ」
牛丼を平らげ、こちらは宮廷錬金術師として与えられた領地の茶葉から四人分用意したティーカップの紅茶で流し込むと、四郎は話題を変える。
「そもそもどんな用事で来たんだ、予想はつくが」
「ご期待通り、危機に瀕している新たな異世界ダイサンノの救援依頼よ」
「全く期待していないが」
「拙者はしてますぞ」
女神の回答に正反対な反応の二人だった。