昼食後の午後。
文部魔法大臣によって護衛の一個小隊を宛がわれ、城門を出て中世ヨーロッパ的な街並みを少し横切ったところに鎮座するドーム状の建物に聖真は導かれた。
大きなホールのような内部は、王女立大図書館だった。
中央に吹き抜けの天窓を擁し、そこを囲うように数階建ての各階層に本棚が整然と並ぶインナーバルコニーを備え、机と椅子のセットが要所に配置されている。
封印された禁書目録以外のあらゆる蔵書があり、市民が自由に利用できる王女国随一の書庫らしい。聖真が見学する間は一般人の来館を停止したそうで、洒落た
聖真は一階の中央にある館内で一番大きなテーブルを囲む備えつけの椅子に掛けるよう頼まれると、卓上に大きな地図が広げられて地理を紹介される。
「この世界は、アンタークティカ大陸と申します」
ヴィクトルは説明を始めた。
人の脳を真中から縦に分断したシルエットの、断面を九〇度傾けたような形状だ。付近にはいくつか島もある。見覚えがある気がした。
端に描かれたほぼ元世界と同一の方位記号から、北が上という見方のようだ。やはりどこかの惑星らしい。天には太陽と月をはじめ星々があり、水平線の観察などや天文学からも世界が球状の惑星の一部とは大陸の住人も理解していると解説も受けた。
ただし、アンタークティカは海の底から天空の彼方に到るまで謎の大嵐に円形状に囲まれているため、それ以遠の陸地は確認できないという。
どこかで聞いたような内容だ。まさかな、という推測が浮かびつつも、とりあえず耳を傾けたままでいる。
大臣は指し棒を使いながら話した。
「大陸の約四分の一を占める西アンタークティカ半島はかつてマリーバード女教皇国が大部分を占有していましたが、ディアボロス魔帝国に侵略されているのでどうなっているのか不明です」
「魔帝国?」異様な単語が飛び込んできたので、聖真は口にしてみた。「悪魔とか魔物とか、人間を襲う連中がいるってところかな?」
「ええ。彼ら魔族は、敵対する神々に創造されたとされる我々人類を嫌悪し、恐怖で支配下に置き堕落させようとしているらしいのです」
嫌な予感は的中した。このままだとそいつらと戦わされるかもしれない。
次いで、文部魔法大臣ヴィクトルは大陸の東側を時計回りになぞるように棒で示していく。
「人類の生存権は東アンタークティカとなっております。現在、主に六つの大国によって分割されていますね。ここエリザベス・コーツ王女国、人の領域で最も強大な神聖ノイシュバーベン・モード女帝国、マックロバートソン王子国、
中でも、エリザベス・コーツは人類生存圏の北西に位置している。
「コーツは、北東ではモード女帝国と、南東ではビクトリア女王国と、南西では魔帝国と、東では大陸中央の未開地域と接している状況です。海にも面していますね。ビクトリアとは同盟関係を結んでいますが、モードや中央とはたびたび領土などを巡る争いが起きていて、魔族の脅威に曝される前線でもある。いちおう魔帝国側とを隔てるトランスアンタークティック山脈による天然の壁を応用して強固な防備が敷かれてはいますが、アトランティック洋側は――」
「――ちょっと待て」
聖真はハタと気付いた。
どこか覚えのある英語の地名がちらほら聞こえたのだ。そこでふと、知っている部分の日本語訳を試みたのである。
なにせ、西洋魔術書の原文を調べるために勉強しようとしたことがある。結果は英語の成績も並みなので挫折したし、翻訳したものや日本独自の本だけでも相当の知識は得られるだろうと途中であきらめたが、わかるものもあった。
昔から
アンタークティカ大陸は、
彼はついに、全身全霊を込めてツッコんだ。
「ここ、南極じゃないのか!?」