「……であるからして、ナウなヤングだった我々はモテモテ――」
「失礼します」
食堂で延々継続されていた老騎士の長話。そこに断りを入れ、傍らから割り込んだ者がいた。
ピエールだった。
「おっと」ようやく老兵は我に返る。「これはうっかり。主役を差し置いて昔話に熱中してしまっていたよ、なんだね?」
「ええ、堪能させて頂きました」
本来の主役たる騎士は、どこからともなく角笛を取り出して提案した。
「お礼に、お話が終わってからでも結構ですが。ぼくも座興の音楽など披露しようかと」
彼の後ろに寄り添うセシールは、怪しい微笑を湛えていた。
数刻後の夜中。
笛による陽気な音楽が響く館の食堂は、異様な変貌をきたしていた。
酒に酔った客たちの騒ぎはいっそう派手になっていたものの、まあそれはもともとのことではあった。問題は、中にクロードとスミエも混じっていたことだ。
いろんな葛藤はどこへやら。クロードは他の騎士たちと肩を組み、木製カップで酒を何杯も飲み、樽から直接飲んだスミエはそれを放るや中央のテーブル上に直立した。
「スミエ・キサト、脱っぎまぁ~す!」
などと宣言。笛のリズムに合わせてダンスしながら、制服の上着を投げ、ハーフレギンスを脱いでスカートを捨てる。半袖スクールシャツも放ると、もはやブラジャーとジュニアショーツだけだ。
この当時の成人年齢に近い美少女のストリップである。全員泥酔していたこともあって、男はもちろん女性客から王侯貴族たちまで大盛り上がりだった。――音楽の奏者とパートナー以外は。
そう。奇妙な笛を鳴らしているのは、王侯貴族たちのテーブル付近にいるピエールなのだ。楽器は角笛だというのに、およそ似つかわしくない流麗な楽曲を演奏できている。
とはいえ、それもまもなく終演となった。
ピエール自体は盛り上がっているわけではないものの、思いっきり、ジュニアブラの片方を肩からはずすスミエの半裸を凝視していたのである。傍らにセシールがいるのも忘れて。
ブラが取れかけたところで、我慢ならずにセシールが恋人をビンタ。曲は止まった。
途端。騒いでいた人間たちは、糸が切れたように全員がどっと眠った。
テーブルのそばにいたクロードはそこに突っ伏し、卓上にいたスミエは彼の上に崩れた。
謝るピエールにセシールは頬を膨らませて怒っていたが、彼らの仕事は成功だった。
同じ頃。
まだトーナメントの名残りたる見物台や柵が片付けきれていないマルクト広場で、がたいのいい騎士のような男が喚いていた。
「――みんな起きろ! 全員逃げるんだ!」
彼の元に、どこからかやって来たローブとフードを纏ったもう一つの人影が寄り添った。前日にスミエを路地裏へと誘った女だった。
彼女は小声で、騎士に何事か耳打ちする。
「……一部は間に合ったようだな」騎士は応答し、指図した。「だがそれで限界だろう、猶予はない。おまえは自分の役割を果たせ、こっちはこれを続ける」
それから、また大声で警告する。
「ハーメルンの人々よ、逃げろ! 妖精に街が攻め滅ぼされるぞ、逃げろぉ!!」
「こら、なにを騒いでるんだ!」
割り込んだ怒鳴りは、ランタンを持って軽い武装をした夜警のものだった。
彼に発見される寸前に、さっとローブの女が騎士のそばを離れる。騎士のほうも、彼女を庇うように反対側に動いて注意を逸らした。
夜警の仲間たちが数名駆けつけ、騎士はやがてつかまり、圧し掛かられるようにして拘束されていった。
「放せ! 大変なことになるんだ。妖精が襲来する、オレ様は――」
騎士はなおも叫んでいたが、意味を理解しきれる者はいなかった。
現在は、まだ。