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捜索と遭遇

「笛吹き男じゃと?」

 大通りでスミエに聴取される老人は首を傾げた。

「そう」ジェスチャーを交えつつ、少女は説明する。「派手な服を着て笛を吹く男よ、そんなやつ来てない?」

「お主もだいぶ派手な服装じゃが、心当たりはないのう。道化師が似た格好で芸をしておるかもしれんが」

「道化師?」

「トーナメントの会場辺りにおるはずじゃ。試合前日からお祭り騒ぎじゃからのう」


 老人が、目近のマルクト広場に顎をしゃくる。スミエが振り返ると、そこには人だかりが集中していた。

 大道芸かサーカスのようなことをやっている人員もいる。まさにピエロの出来損ないみたいな派手な服装の道化師も踊っていて、ちょうど火吹き男が口内から噴射した火柱がそそり立った。

 火を吹ける男やピエロもどきがいるなら派手な笛吹き男もいるはずだ、と、ずれた発想ではっとするスミエ。


「ありえるかもしれないわね、ありがと」

 お礼に老人へと投げキッスをして、スミエは広場へと駆けだす。ところが――途中で誰かに腕をつかまれた。

「ちょ、なになになに!?」

 わけもわからないまま二つの建物の間に引きずり込まれ、路地裏で家屋の外壁に背中から叩きつけられる。犯人は、さっき門前にいたフード付きのローブに身を包む怪人物だった。

 スミエはゼノンドライブをいつでも解放できるように身構え、忠告する。

「――このッ! 痴漢なら容赦しないわよ!」


 なのに、ローブの人物は抱きついてくる。柔和な感触は女だった。

 フードで表情も窺えないが、身長などから歳もそう離れていないようだ。おそらく同性とはいえ、あまりの密着にどぎまぎしてしまうスミエ。なにせ、自分の倍くらいはあるやたらでかい胸まで押し当てられてくるのだ。

「ごめんなさい」ローブの女は少女の耳元で囁いた。「疑ったけどこれだけ肉薄しても魔力自体がほぼない、あなたは普通の人間ね。街の入り口にいたでしょ、クロードと一緒に」

「ク、クロードって。クロード・オリヴィエのこと?」

「ええ。でも、こちらから名乗るわけにはいかない。悪いけど、会ったばかりのあなたじゃ信じきることもできないわ。もそばにいる。隙を見ていずれ詳細を伝えるから。とりあえずはクロードにだけそっと警告して、〝信用しないように〟って」

 言いたいことだけ言うやローブの人物はばっと離れ、駆け去った。

「頼んだわよ!」

 そう、念を押して。


 スミエはいきなりの出来事に呆然と、ローブが路地を出て角を曲がり、消失するのを見届けるばかりだった。

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