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遺跡と悲鳴

 数日、放浪した。

 従者さえいないたった独りの旅だった。

 危険ではあったが、クロードには奥の手があるので気にしなかった。やがて、孤独にも厭きてきた頃だ。

 パリに帰るか。故郷に帰るか。新たな仲間でも探すか。

 どういうわけかフランス王国からは東に離れるばかりで、無意識に三番目の選択肢へ進み始めていたときだった。


「嘘ッ!? ウソでしょウソでしょ、ウソでしょぉ~! こんなでっかいおっさん、ホントにいたのぉーッ!?」


 間抜けな悲鳴が耳に飛び込んできたのである。


 二日前の夜だった。火打金で起こした焚き火のそばで目が覚め、柱のような巨石たちに囲まれていたことを思い出す。

 神聖ローマ帝国中部の小規模な遺跡。学者たちによれば、古代人か巨人辺りが築いたのだろうとの見解だ。

 用途は忘れられているが、こういう場はなぜか魔力が溜まりやすく、これら石柱を結んでできる図形が天然の魔法陣にもなる。土に線を描き足すなどして手を加えれば悪い妖精アンシリーコートなどから身を護る結界を張る手間が省けるため、ここで寝たのだ。あるいは、親友ピエールと王都パリにいた頃の思い出の地形に似ていたせいもあったのかもしれない。

 ひとまず寝ぼけた頭だったので夢かと思案して、また目蓋を閉じかけた。


「いやぁー! 来ないでよぉー!!」


 女の悲鳴だ。――近い。

 クロードは毛皮の布団を跳ね除けて、片手で剣を、片手で焚き火から薪を拾い、松明代わりに周囲を確認した。

「ペダソス、どこだかわかるか?」

 傍らの愛馬も起きていたので訊くと、彼は一方向に首を振って怯えの嘶きを発した。

 すかさず、そちらを注視する。

 幸いここは草原。それも、丘陵の上だ。

 下に位置する景色は夜だがそれなりに窺える。雲海から露出した星月の明かりも強い。


 すぐに、大小二つの影を数十歩ほど離れた位置に捉えた。

 奇妙に洗練された服装で荷物袋を背負い、長髪を振り乱して逃げ惑う人間の少女。その三倍はある影に襲われている。

 後者は獣の皮のようなものを纏い、一本の木から削りだしただろう棍棒を持つ毛むくじゃらの巨人。


 ――オーガだ。

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