目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
名声と羞恥心

 さして強くはなかったが精神的にはこの上なく立派な封建騎士であった父が大病を患ったこともあり、クロードは十代前半で騎士叙任式を受けた。

 でなくとも長男である彼には、別の道などありそうになかった。下には有力な兄弟もいなかったのだから。


 もっともクロード自身も妖精〝ドラゴン〟を退治した聖ゲオルギウスに憧れ、そんな騎士になるのを夢見るような性分ではあったが、当初は実力が伴っていなかった。

 にもかかわらず剣術に秀でているとフランス国王フィリップ三世の重臣たちから誉められたのは、反則的な手段を使っていたからに他ならない。従騎士として最初に殺した敵兵が高名だったせいもあろう。


 アラゴン王国との小競り合いに参加したとき。クロードは騎乗突撃で振り落とされ、指折りの剣客と称される敵兵と偶然対峙したのだ。

 相手の周りにはフランス王国側の死体がいくつもあり、明らかに戦ったあとで疲労していた。そこを愛用の長剣〝ジョフロアの大牙デファンス〟で倒しただけだが、それでも評価され、将来有望な騎士候補の一人と認知されることになった。

 殺した相手の顔はしばらく脳裏から離れなかった。初めての殺人だったせいもあるが、なによりかの兵はクロードが常人でないと戦闘中に見抜いたのだ。

 他には誰にもばれていないが、以後はそれが辛く恥ずかしくもあった。こんな卑怯者の弱虫が、優秀な戦士の人生を終わらせたことを非難されているかのようだった。


 かくして。


 以降は、好評価の要因であった反則技は一切封じた。

 人々は急に腕前の衰えたクロードを不思議がったが、もともと才能もあったのかもしれない。努力の末にやがて純粋な実力で功成り名を遂げた。

 そうして一通りの学修期間を修了し、さらなる修行のために仲間たちと徒党を組み、遍歴の騎士として旅立った途中でのことだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?