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第31話『二人で最強の陰キャ勇者』


 戦いが終わり、俺たちは心地よい疲労感と高揚感に包まれながら客間へと戻る。


 ちなみに天たちは敗北後、逃げるように城から去っていた。


「いやー、二人とも強かったねぇ。うんうん、希空さんは信じてたよ」


「わたくしもですわ!」


「おわっ……!?」


 そして真の勇者となった俺たちを出迎えてくれたのは、左右からの抱擁ほうようだった。


「え、えっと、ひいらぎさん、身体能力強化の魔法、かけてくれてありがとう。おかげで勝てたよ」


「うーん? なんのことかなー」


 おずおずといった様子で橘さんがお礼を口にするも、希空はわざとらしくはぐらかした。


「……ところでアカネ様、そんな素敵な瞳をされていたのですね」


 その時、カナンさんが橘さんの左目を指し示しながら言う。


「あ、これは、その……」


 色の違う両目を、橘さんは慌てて隠そうとするも、そのための前髪は直前の戦いで切られてしまっていた。


「あう……その、ずっと、隠してたの。変じゃない……?」


 隠しきれないと悟ったのか、橘さんは瞳を伏せながら、なんとも言えない表情をする。


「何を隠す必要がありますか! この世界では、オッドアイは幸運の証なのですよ!」


「え……そう、なの?」


 その時、カナンさんが満面の笑みでそう言い、さらに続ける。


「青色は広大な空と母なる海を、琥珀こはく色は大いなる実りをそれぞれ表しているとされています。双方の瞳を持つなんて、敬われこそすれ、けなされることなどありえませんわ!」


「そーそー、綺麗な色だし、毎朝拝んでたら金運アップしそう」


 カナンさんに続いて、希空が両手を合わせて拝むような仕草で言う。


「も、もう……恥ずかしいから、やめてほしい……」


 そう口にしながらも、橘さんはどこか嬉しそうだった。


「ほら、前に俺が言った通りだったでしょ」


 自然とそう伝えると、橘さんは朗らかな表情で頷く。


 これで彼女のトラウマが少しでも癒えてくれたらいいと、俺は思ったのだった。


「それにしても……とーや、この世界に来てだいぶ変わったよねー。やっぱり、朱音ちゃんのおかげかな?」


「ど、どうしてそうなるのさ」


 橘さんと思わず見つめ合っていると、希空が茶化すように言う。


「だってほら、あの連中に二人だけで勝っちゃったしさー。ホント、二人で最強の陰キャ勇者って感じ?」


「いや、そこに陰キャって単語、必要?」


「えー、だって二人とも陰キャなんでしょ?」


「確かにそうなんだけどさ……変わる努力はしているというか」


「別に無理しなくていいと思うけどなー。ね、カナンっちもそう思うよね?」


「ええ、お二人はそのまま、最強の陰キャ勇者でいてくださいまし!」


 希空に合わせるように、カナンさんがニコニコ顔でそう口にする。


 この人、絶対言葉の意味わからずに使ってるよね……。


 呆れ笑いを浮かべたあと、俺はソファに腰を落ちつける。


 その拍子に気が抜けてしまったのか、猛烈な眠気が襲ってきた。


「それで、これからどうするの? 明日にでも、魔王封印の旅に出ちゃう?」


「え、明日……?」


「ノア様は気が急きすぎですわ。まずは数日ゆっくりしていただいて、疲れを取って……」


 そんな女性陣の会話をどこか遠くに聞きながら、俺は考えを巡らせる。


 ――突然異世界に呼び出された時はどうなることかと思ったけど、色々あって真の勇者になることができた。


 今後は橘さんだけじゃなく、聖女である希空も旅の仲間に加わるのだろうし。


 これからの旅はより一層、賑やかなものになる気がした。



           二人で最強の陰キャ勇者 第一章・完



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