目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第30話『真の勇者を決める戦い 後編』


『……うん。攻撃パターン把握した』


 脳内に突如として響いたたちばなさんの言葉に、俺は困惑する。


「橘さん、それってどういうこと?」


『そのままの意味だよ。あ、右に避けて』


 続いてそう言われ、俺は反射的にサイドステップする。


 直後、無数の剣が地面を貫いた。


『今度は後ろから来るよ。次は上から。その次はまた後ろから』


 橘さんに言われるがまま、俺は回避行動を続ける。てんの攻撃はまるで彼女に予知されているようだった。


「……橘さん、未来予知能力でも手に入れたの?」


『ち、違うし。あの人の手の動きで、どこから攻撃が来るかわかるの。あ、今度は右上と前から同時』


 言われてすぐに、俺は左側へと避ける。彼女の言った通りの位置から剣の雨が降り注いだ。


「あの剣のスキル、そんな発動条件があったんだ……橘さん、よくわかったね」


『あれだけ派手に腕を動かしてればね』


 心なしか明るい声色の橘さんに勇気をもらいつつ、俺は一気に天との距離を詰めていく。


 その後も四方から剣が襲いかかってくるが、その発動位置はすべて筒抜けだった。


「ちっ……」


 ある程度まで天に近づいたところで、彼は自身を守る巨大な剣の陰に隠れる。


 突然攻撃を避けるようになった俺たちを見て、さすがに悟ったらしい。彼は自分の手元が見えないようにしつつ、攻撃を続ける。


「うっわー、何あいつ、卑怯くさいなぁー」


 その様子を見ていた希空のあが、わざとらしい大声で言った。


 ……確かに卑怯かもしれないけど、戦術としては理にかなっている。


 攻撃警戒アラームのおかげで、ギリギリ攻撃を避けられているものの、このままだと近づくこともままならない。再びジリ貧だ。


高木たかぎくん、ライトニングギア、リキャスト終わったよ』


 その時、橘さんの声が脳内に響く。


 ……これを待っていた。一気に勝負をかけよう。


「――ライトニングギア、発動!」


 次の瞬間、俺は一気に速度を上げ、天との距離を詰めていく。


「またそれか! ちょこまかと!」


 天が叫び、左右から剣が飛んでくるも……俺たちのほうが速い。


 あと少しで彼の元へたどり着くという時、再び警戒アラームが鳴り響き、前後からの攻撃を知らせる。


『高木くん、このままじゃやられちゃうよ。もう盾もないし、一旦避けて』


「いや、俺に考えがあるんだ。合図したら、一旦合体解除して」


『えぇ!?』


 橘さんの驚愕の声が響く中、無数の剣が俺たちへと向かってくる。


「もう時間がない。いくよ! 解除!」


 その剣をギリギリまで引きつけたあと、俺たちは合体スキルを解除し、二人に分かれる。


 それまで高速で移動していたこともあり、元の姿に戻った俺たちは弾かれるように左右へと飛ばされる。必死に受け身を取ると、二人の間を剣の雨が猛烈な勢いで通り過ぎていくのが見えた。


「なっ……分離しただと!?」


「橘さん、天のところまで走って!」


「う、うん!」


 天が動揺した隙を見逃さず、俺たちは勢いそのままに駆けていく。


 戦いが始まる前に希空がかけてくれた身体能力強化魔法がまだ生きているらしく、どちらも普段とは比べ物にならない速度で走ることができた。


「くそっ、来るな! 陰キャどものくせに!」


 天も焦っているのか、デタラメに手を振り回して剣の雨を降らす。その動きは丸見えで、生身の俺たちでもなんとか回避することができていた。


「……わっ!?」


 その時、天が放った剣の一本が橘さんを掠める。


 心配になって一瞬足を止めかけるも、彼女は臆することなく歩みを進めていく。


 そんな橘さんに鼓舞されるように、俺も前進。やがて天の目の前で、俺たちは合流する。


「橘さん、前髪が……」


 近づくと、橘さんの前髪が切れていて、普段は隠れている左目が露わになっていた。


 おそらく、先程の攻撃でやられたのだろう。


「……大丈夫。いいから、早く合体しよう!」


 色の違う双眼でしっかりと俺を見据え、そして伸ばされた右手をしっかりと掴む。


 ……直後に閃光と衝撃波が放たれ、俺たちは再び合体する。


「う、うわああっ!?」


 至近距離で放たれた衝撃波に、天が怯む。


 それと同時に、彼を守る二本の巨大な剣が、その盾となるべく俺たちの前に立ちはだかる。


「……はぁぁぁっ!」


 それに向け、俺は渾身の力でライオットソードを振り下ろす。


 その剣戟は二本の剣をまとめて斬り裂き、続いて轟音とともに雷撃を発生させる。


「あ、が……」


 その雷撃は天を直撃こそしなかったものの、彼を気絶させるには十分な威力だった。


 天は大きく吹き飛ばされたあと、地面に転がって動かなくなる。


 そんな彼の近くに、茫然自失ぼうぜんじしつとなった新田にったさんの姿があった。


 視線を移すと、彼女は涙目で両手を上げて、降参のポースを示した。


「――そこまでですわ!」


 それを確認した俺たちが剣を下ろした時、心底嬉しそうなカナンさんの声が響いた。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?