突然の展開に、私は目を見開いた。
ま、まさか…夏樹さんが男の人だったなんて…!
夏樹は破れたドレスをぎゅっと掴み、胸元を隠している。その表情は苦痛と羞恥が混じり合っていた。そんな夏樹の姿に、私の胸はズキリと傷んだ。
一方、小西は黙っていられない様子で、テーブルの酒をグイっと飲み干し、グラスを床に叩き割る。そして、私を見て鼻で笑った。
「さあて、小娘。どういうことか説明してもらおうか。てめえ、一体何者だ?どこの差し金で録音なんてしやがった?」
私は無意識に唇を噛む。この人にはもう二回も嘘をついた。三回目はもう騙せない…!
(一回目も二回目も騙せたわけじゃないけど…)
「いや、その前にこっちか」
小西が振り向き、夏樹を冷たく見下す。夏樹は怯え、小西の視線から逃げるように目を逸らす。その仕草が、さらに小西の嘲笑を誘った。
「まったく。すっかり騙されたぜ。店の看板娘が、まさか男だったなんてなんてよお!」
わざとらしく大声で笑い飛ばす小西。その言葉に夏樹は体を震わせ、破れたドレスで体を隠しながら耳を塞ぐ。一体いつ知ったのかは不明だが、どういうわけか、この小西は夏樹の秘密に気付いていたらしい。それを知った上で夏樹を辱めるような真似事を…。
…この男…よくも、夏樹さんを…!
完全に堪忍袋の緒が切れた私は、「くらえコノヤロー」と心で叫びながら目の前のおしぼりをペシっと小西の頭を目がけて投げつけた。
「あ?」
振り返り、私を睨みつける小西。サングラス越しからも怒りでギラついているのがわかる。だが、私も負けじと睨み返す。その態度が気に食わなかったのか、小西は苛立ちを爆発させ、テーブルに置かれた酒瓶やらグラスやらを床に叩き落とし、立ち上がった。
「さっきから舐めてんじゃねえぞ、このガキ!」
怒声が店内に響き渡った次の瞬間、店中から悲鳴が上がる。小西は完全にブチ切れ、私に向かって拳を振るい上げていた。
私は三秒ほどの間に周囲をキョロキョロと見渡す。
何か棒…武器になりそうなものは…!?
竹刀に似た形状の物を探す私だが、当然そんなものは見当たらない。結局、私が手にしたのはテーブル上に置かれていた、酒を混ぜるための細長い「マドラー」だった。
次の瞬間、小西の拳が勢いよく振るい下ろされる。
私は間一髪でひょいっとかわし、小西の横に回り込んだ。そして――
…くらえ!!
手にしたマドラーで、思い切り小西にペシっと面を食らわせる。だが、強度がないマドラー。当然ダメージはない。小西はうっすら笑みを浮かべると再び私に拳を振り上げた。
「ていや!」
私は即座に反撃に出た。次は胴!
マドラーを持った手を力強く繰り出す。だが――。
ふにゃり。
あっさりと曲がるマドラー。その頼りなさに、私は思わずがくりと肩を落とす。
うう、マドラー…頑張れ!
そんな心の声とは裏腹に、小西にダメージはない。
「お遊びはここまでだ」
そう呟くと、小西は思い切り私の肩をガシッと掴んだ。
「…俺は女だろうがなんだろうか、容赦しねえぜ」
その言葉とともに、小西は再び拳を振り上げた。
「危ない!なっちゃん!!」
夏樹の声が響くのと同時に、私は蹴りを入れようと腰を落とす。だが、次の瞬間、小西の体が突然後ろに吹っ飛んだ。
「えっ…!?」
呆然とその光景を見つめる私。振り返ると、そこには財前がいた。いつものおちゃらけた表情とは一転、その瞳には怒りが宿っている。店にいた全員が息を呑む中、財前は力強くこう言い放った。
「てめえの相手は、この俺だ」