海に落ちたはずの機体は、信じられないほど綺麗だった。
「傷一つない…。」
俺は呆然とルミナスフローラを見上げた。確かにルナリウム装甲は硬くて軽くて、錆びないし宇宙線にも耐えられるって聞いてたけど、墜落したら普通壊れるだろ。
隣でルナがそっと機体に触れ、小さく呟いた。
「…これ、修理されています。たぶん…お父様が…。」
「父さん?」
俺が聞き返す間もなく、ルナはコンテナの中に置かれていた書類を手に取った。
「スペックと装備まで…説明書付きです。それに…修理証明書まで…」
彼女が手にした書類には、びっしりと修理内容が記載されていた。横から覗き込むと、細かいメンテナンス記録や装備のアップデート内容まで丁寧に書かれている。なんだよこれ…。まるで父親からの無言の手紙みたいじゃないか。
その時、騒ぎを聞きつけたアヤカがやってきて、書類を覗き込むなり声を上げた。
「ルナドライブのスペックは…えっ、はぁ!?なにこれ!?」
完全に固まったアヤカが、さらに書類を指差して叫ぶ。
「このエネルギー生成速度、回復速度、何これ!?桁外れすぎるじゃん!」
その数値は、俺が見ても意味が分からないくらいとんでもなかった。冗談抜きで別次元のテクノロジーって感じだ。
ルナは小さく息を吐き、書類を抱えたまま少し俯いて呟いた。
「お父様の意図が、私には分かりません。」
その声には苛立ちと困惑が混じっていた。
「私がルミナスフローラを…お母様の機体を持ち出して、父の手から逃れたのに。こんな形で届けてくるなんて、まるで――乗れ、と言わんばかりです。」
その言葉に込められた感情が胸に刺さる。戸惑い、不安、そして苛立ち――ルナの中に渦巻く感情が手に取るように分かった。
「…もう私の居場所も完全に知られているはずなのに、捕らえに来る気配すらないなんて…。どうして?」
ルナは拳をぎゅっと握りしめた。その仕草には、不安だけじゃなく、悔しさも滲んでいる。
アヤカが腕を組み、眉を上げながらふと口を開いた。
「それって…もしかして、あんたの父さん、何か他の意図があるんじゃない?ルナちゃんを戦わせたい理由があるとか?」
俺もその考えに頷く。確かに、その可能性が一番しっくりくる気がした。
ルナは少し考え込むように目を伏せたが、すぐに顔を上げ、首を振った。
「…でも、私は戦います。お父様の計画のためじゃなく、私自身のために――自分の意志で。」
その瞳には、迷いを振り払う強い決意が宿っていた。その姿を見て、俺は心の中で確信する。ルナが選んだ戦いなら、俺たちはそれを支えるだけだ。
アヤカが軽く笑いながら肩をすくめる。
「ルナちゃん、わけありみたいだけど、別に隠しててもいいのよ。今は関西大会に出るほうが大事でしょ。」
こいつ、本当にただ機体をいじりたいだけなんじゃないか?そう思いつつも、俺は軽く笑って操縦桿を叩く真似をしてみせた。
「だったら、やるしかないな。俺たちで勝ち進んで、お父さんに見せてやろうぜ。ルナが自分の意志で戦ってるってな。」
その言葉に、ルナの表情が少し和らいだ。そして、小さな声で答えた。
「…ありがとうございます、リュウトさん。アヤカさん。」
その瞳に宿る決意を見て、俺は小さく頷いた。アヤカもそれ以上は何も言わず、微笑みを浮かべている。
これでいい。俺たちはチームだ。ルナがどんな背景を持っていようと、それは関係ない。今、大事なのは次の戦いに向けて進むことだ。