タッグの相方はまだ見つかっていなかったけど、ユイの「パワーアップ」提案で少し光が見えた気がして、気分が軽くなっていた。スペースポートの一角では、ユイとアヤカが意気投合しながら改造を進めている。そのやり取りがあまりに賑やかで、見ているだけで元気をもらえる。
「やっぱ水流装備やろ!」
ユイが目をキラキラさせながら提案する。その自信たっぷりな態度はどこか子供っぽくて、つい笑ってしまいそうになる。
「いやいや、関西大会の場所ってまだ公開されてないじゃない!和歌山みたいに水が使える環境とは限らないでしょ?」
アヤカは眉をひそめ、一瞬だけ考え込んだあとに冷静に切り返す。その声には、わずかな苛立ちも混ざっていたけど、やり取り自体は楽しそうだ。
「まあ、せやな…ほな、ユニバーサルな装備にしとくか!」
ユイは腕を組みながら満足げに頷いた。
二人の漫才みたいなやり取りに、俺はつい口元が緩んだ。まだタッグの相方は見つかっていないけど、こうして少しずつでも前に進んでいる――それが不思議と希望を与えてくれる気がした。
そんな日々が続いていたある日、関西大会エントリー締め切りの一週間前のことだ。俺はいつものようにスペースポートでジャンク整理のバイトをしていた。すると、突然巨大なトレーラーが施設の前に滑り込んできた。
「リュウト様宛に、ルナヴァルド社から特別配送です〜!それと、ルナ様にお渡しするようにとのことです!」
配送員の大声に、俺は手が止まった。
ルナヴァルド社?月面開発のトップ企業…!?
耳を疑ったけど、トレーラーの側面に描かれたロゴを見た瞬間、それが本物だと確信した。
「俺宛に?それに、ルナにって…?」
頭の中が一気に混乱する。作業手袋を放り出すと、慌てて事務所に駆け込んだ。
事務所では、ルナが黙々と書類の整理をしていた。いつもより真剣な表情で、俺の声も最初は届かなかったくらいだ。
「ルナ!ちょっと急いで来てくれ!」
「えっ、ど、どうしたんですか?」
驚いた顔で振り返るルナの手を取って、俺はトレーラーの前まで連れて行った。配送員が荷台を開け始めると、中から現れたのは――銀色の装甲の優美な機体。そのフォルムは、これまで見たどの機体とも違っていた。
まるで月の女神が、ここに舞い降りたみたいだった。
「お母様の…ルミナスフローラ…!」
隣でルナが呟いたその言葉に、俺は息を飲んだ。前に彼女が話していた海に沈んだ機体。それが、今ここに届いたというのか。状況を理解するには少し時間が必要だったが、目の前の光景は否応なく現実を叩きつけてくる。
俺はその様子を、固唾を飲んで見守るしかなかった。