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第226話 いつにするか

 安達と遊びに行って(行かされて)から2日後。

「どっかで遊ぼ」

 俺は届いたダイレクトメッセージを目にしてしばらく黙していた。

 差出人は誰だと思う?

 春野? 日高? 葵? いや違う。

 加賀見真幸という名の悪党だよ!


 先日、夏休みに入った直後に安達からのお誘いがあったわけだから俺と関わりのある他の連中も同じことをしてくるのは想像していた。

 とはいえ次の機会がやって来るのが2日後って早くない? もうちょっとゆとりをもって誘ってきてもよくない?


 いや、メッセージをよく見よう。

 遊びに誘う文面ではあるものの、その宛先は特に記されていない。

 ということは人違いの可能性もある!


「加賀見、宛先間違ってないか?」

 というメッセージを送って返信を待つ。

 加賀見が俺としばしばサシで話し合いの場を設けることは時々あったが、こうして単に遊びに誘ったことは俺の記憶には特にない。

 メッセージを送った後に考えれば考えるほどメッセージの送信先を加賀見が誤ったようにしか思えなくなった。


 前もってその可能性に思い至れてよかった。

 てっきり早合点の上で観念して了承の返事を送ってしまうところだった。今日の俺は頭が冴えてるぜ。

「いや、間違ってない。黒山で遊ぶつもり」

 あ、やっぱ全然冴えてなかったね。

 あと加賀見さん? 「黒山と」でしょ? 「黒山で」なんて誤字しちゃってもう、ドジなんだから! わざわざ指摘しないけどね!


 さて、こうなっては如何にして加賀見の誘いを躱すか考えなくてはならぬ。

「遊ぶっていきなりどうした。安達と遊べばいいだろ」

「ミユとは昨日遊んだ」

 ほう。アイツ俺とショッピングセンターへ行った翌日に今度は加賀見と仲良くイチャついてたのか。相当なバイタリティだな。

 でも俺の都合を聞かずに遊びに誘うのはなかなかに非常識だと思うぞ。お前に常識説いてもしょうがないけどさ。


「明日とかじゃダメか?」

「うん、いい」

 割合あっさり同意をもらえてメッセージは終了。はあ、明日は頑張らないと。



 その1時間後。

「胡星先輩、デート練習の件で話があります」

 今度は誰だと思いますか。

 いや、もうわかるよね。俺のこと胡星先輩って呼ぶのもう葵しかいないもんね。


 メッセージでのお誘い、まさかの立て続け。何なのコイツら。他にやることないの?

 しかもデート練習ってこれまたえらく面倒な話題を持ってきやがった。

 ああ覚えてるよ。

 日々男に言い寄られて困ってる美少女な葵のために、俺が男避けとして葵の友人を演じるって話だよな。

 そこで普段から自然な友人関係を周囲へ見せられるように、二人でどっかに出掛けて友人を演じる練習をするとか、意味がわかるようでよくわからん話になってたな。


 今でも思うが何で葵の友人役が俺なんだろう。

 葵はその理由を少しでも知ってる相手の方が安心するからみたいなことを語ってた記憶があるが、それだって幼馴染みたいな古い付き合いという意味でなく、奄美先輩の話を通じて一方的な情報として知っていたという意味だった。

 そんな俺からすれば赤の他人に等しい女子を相手にこんな突拍子もない大役を任されるのは今更ながら滑稽こっけいに思えた。絶対もっと相応ふさわしい候補者いたと思うのよね、俺。

 そして今までの状況を整理してみると演じるのはあくまで友人であって彼氏ではないのにその練習のことを「デート練習」って表現するのはどうなんだ。

 男女二人きりで外出したら必ずしもデートって言うわけじゃないだろ。


 葵の言い分に釈然としないものはあったが今ここでそれにツッコミを入れても始まらない。

 ここは下手に否定せず乗り気っぽくいって適当にごまかそう。

「ああ、どうした」

「この夏休みで、できる限りいろんなデートスポット回りたいなー、て思うんです」

「ほう」

「そこでさっそくここの水族館に行きたいんですがいいですか?」

 と言ってメッセージに水族館のサイトと外観の画像を添付してきた。


「俺、魚とかは苦手でな」

「苦手ってどういうことですか」

「いや、ほら。見た目の雰囲気とか水の中を平然と生きられるところとかちょっと気持ち悪いなって」

「魚に対してそんな評価する人って世界中で胡星先輩一人だけかと」

 いや、そんなことないんじゃねーの。


 ごまかし方がマズかったのかメッセージ上の文面から葵のこちらを疑う気分が見えてきた。ここは方針転換と行くか。

「行くにしてもいつにするんだ」

「急に話変えましたね。私としては今週のどこかだとありがたいです」

 今週、ですか。

 話の流れからして、もうごまかすのは厳しいな。


 仕方ない、今週の何日にするかと考えたところで俺はあることを思いついた。

 ひとまず

「わかった」

 とメッセージを打ち、葵と行く日にちについて決めてメッセージは再び終わった。


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