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第030話 幼馴染

 我らが九陽高校の最寄り駅である丸船駅は周辺に比べると大きい方の駅で、九陽高校の生徒以外にも他多数の学校の生徒が通学で乗り降りしている。

 俺はその丸船駅に9時50分頃に到着した。集合時間のおよそ10分前。

 乗り気ではなかったが、遅刻したら加賀見からどんな罰を受けるかわからない。渋々眠い頭を働かせつつ、貴重な時間を潰して外出してきた。

「おはよう黒山君」

 集合場所には安達が既に一人で待っていた。

 裾が足首の辺りまで覆った長い黒のスカートに、清涼感漂う水色のYシャツを身に着けたその出で立ちは安達の清楚な雰囲気をより際立たせていた。

「ああ。お前早いな」

「えへへ、こんな多くで遊びに行くの久しぶりだから張り切っちゃって」

 恥じらいを少し見せつつ微笑む安達。

「今日はよろしくね」

「今日はもうお開きにしないか」

「まだ半分も集まってないんだけど」

「いいじゃないか、その残り半分だけで楽しんできたら」

「いや何で私まで除外されてんの」

「あー、すまん。気分悪くさせちゃったかな。これ以上居続けるのも悪いから今日はこれで」

「帰さないからね?」

 安達の方からドスの利いた濁った声が聞こえる。その清楚な格好に似合わないからやめた方がいいと思うな。

「他の奴らも予定通り来るんだよな?」

「うん、特に休みとか遅れるって連絡も届いてないし来ると思うよ。春野さんと日高さんは家が近いから一緒に来るってさ」

「ほう」

 そう言えばあの二人は幼馴染なんだっけか。

 計画の一環で春野を探ってたときでも日高は常に行動をともにしているのを見たし、あの二人の仲睦なかむつまじさは並々ならぬものを感じる。


 幼馴染なんてラブコメで最低一人は主人公につく鉄板の設定だよな。

 異性の幼馴染が主流だと思うが、たまに同性の幼馴染も出てきて大抵気心知れた主人公の親友ポジションに収まるケースが多い気がする。

 春野と日高にも他の幼馴染はいるんだろうか。

 もし二人と共通で男の幼馴染がいたら三角関係のラブコメとか普通に起こってそう。

 男の幼馴染が二人に思いを寄せられるハーレムラブコメとかになってそう。それなら俺なんかに関わってる場合じゃないのでは。

 それから、三人の内誰かが主役になって同じ学校の同級生を巻き込むドタバタ劇とか巻き起こりそう。

 でも考えてみたら俺が学校で春野を探ってたときも、日高や同じクラスの女友達以外と話してるところは見たことなかったな。

 じゃー男の幼馴染なんていないんじゃん。いたとしても別の学校にいるってことだから盛り上がりようがないじゃん。

 勝手に妙な期待をして勝手に無駄と悟って勝手にガッカリしていると、別の奴がやってきた。


「おはよう、ミユ、ブラック」

「おはようマユちゃん」

「その呼び名やめろっつったろ」

 加賀見だった。

 空色のハーフパンツに白いTシャツを着けており、活発な女子中学生に見える。

 お前まさかと思うが、中学時代からずっと成長しないから着続けてる服とかじゃないよな。

「ミユ、何か大人っぽく見える」

「えー、そんなことないよ」

「そりゃ中学生からすれば高校生は大人に見えるよな」

「何か言った?」

「いえ別に」

 加賀見が体を安達に向けたまま、首だけグルンと俺の方に回した。俺はそんな加賀見と視線が合わないように首を加賀見のいない方にグルンした。

「後は春野さんと日高さんだけだね」

「うん、二人と休日に遊ぶの初めてだから楽しみ」

「下校のときは一緒のこと多いけどね」

 そうだったのか。先の計画を進めてたとき、春野の登下校はノーマークだったから全く知らなかった。

 マジでお前ら女子四人のグループで何か活動した方が物語として色々面白くなるんじゃないか。何度も言うけど俺という存在が余計すぎる。

「お前ら四人でつるむこと結構多いのな」

「うん、黒山君のおかげだね」

「まあ、アンタが絡んでなきゃ今でもお互いに接点なかっただろね」

「……」

 あの計画についてはつくづく余計な真似をした、と思う。


 10時まで残り数十秒、といった辺りで

「おはよう、皆」

「いやー、待たせちゃってゴメンね」

 春野と日高が二人揃って挨拶する。

 春野は薄手の白いトップスにこれまた白い羽織り、そして腿の辺りまで裾を上げた黒いスカートを身に着けていた。

 そのファッションはモデルさながらの体型と合わさって太陽の光に輝き、道行く人の視線(男性多め)をちらほら奪っていた。

 日高もその春野に負けておらず、山吹色を地とした丈の短いTシャツにベージュのワイドパンツ、アクセサリーに青いキャップを頭に被っているその姿はスタイリッシュな雰囲気を漂わせる。見ようによっては春野をナンパから守るクールな友人にも思える。

「うわー、春野さん可愛い!」

「日高さん格好いいね」

 安達と日高も二人をほめそやす。

「あ、ありがと」

「二人も可愛いじゃん。私なんてまだまだだよ」

 女子達で早速話が盛り上がる。

 俺? 当然会話に入れるわけがない。

 そもそも俺というモブがこの場にいることがとんでもない間違いなのだから。

「アンタは春野さんの格好どう思う?」

 加賀見が突然場違いの俺に話しかけてくる。何故に春野限定?

「そうだな、この時期にピッタリの格好かと」

 加賀見に変に責められてはたまらないので、自分の考える無難な回答を出した。

「あはは、まあ今日はちょっと暑いからね」

 春野は頬を人差し指で掻きながら微笑んだ。今からでも遅くないから、その魅力に溢れたファッションで王子とかイケメンを誘ってデートでもしてきたらいいのに。


 女子達の話が一通り済み、改めて遊びに行く場所を選ぶことに。いや決めてなかったんかい。

「皆行きたいとこある?」

「んー、どこでもいいよ」

「私も」

「適当に決めちゃおうよ」

 全員人任せ状態。ダメだこりゃ。もう家帰ろうよ。

「黒山君は普段どこ行く?」

 春野がいきなり突拍子もないことを訊いてくる。

「普段は本屋に寄ってくかな」

 さしあたって素直に質問に答えた。

「そっか……。ねえ、とりあえず最初はそこにしない?」

「そーだね、ちょっと建物の中で涼みたいし」

 女子達からも異存が出ず行き先が本屋に決まる。え、そんないい加減な決め方でいいの? もし俺が普段パチンコ屋に行くとか答えてたら皆パチンコ屋に行くつもりだったの?

「いや、こんな人数で本屋寄ってっても一緒に楽しむの難しくないか」

 さすがにどうかと思い、ついつい余計な口を挟んでしまった。

「まーいーじゃん。最初はそんな感じでもさ」

「皆でワイワイ騒げるような場所は後でいくらでも行けるしね」

 日高と安達がそう言う。

「ん、まあいいけどな」

 俺としても一人で本とか物色した方がマシなのは確かなので、これ以上反論はしなかった。


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