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第007話 加賀見真幸

 私、加賀見真幸は一人に慣れていた。


 昔から誰かに話しかけるのが面倒臭かった。

 同級生とは何を話せばいいかもわからず、たまに話を振られても「あ」「うん」程度のことしか答えてこなかった。

 一応学校行事の準備のように、事務的な用事であれば普通にコミュニケーションを取っていた。

 しかしそれ以上の雑談にはどうにも入っていけなかった。

 そんな調子で小学校、中学校で誰とも必要以上に話しかけない生活を送っていたらいつの間にか一人が当たり前になっていた。

 そういう生活も十年近くとなればさすがに慣れてきて、寧ろ誰のペースに合わせることもないから楽しいと思えることもあった。


 友達が欲しい、という時期があるにはあった。

 でもある時からそれもどうでもよくなりマンガ、アニメ、ゲームと一人だけで遊べる娯楽にそこそこ興じながら生きるようになった。サブスク最高。

 高校に入っても特に状況は変わらなかった。

 きっと私は友達を持たず、彼氏もなく、独身のまま人生を終えるのだろう。

 そんな将来でも楽しく生きられたら別にいいかと思いながら、私は自分の部屋でベッドに寝転びマンガを読んでいた。


 そんな生活が変わるのは突然のことだった。

 高校に入って一月半ほど経った日の放課後、下駄箱を開くとそこには手紙が入っていた。

 何だこりゃと思い中身を開くと「安達弥由」さんから今日16時に校舎裏に来るようにとの内容だった。

 いや、誰?

 ものすごく不審に思ったがこのまま無視するとどうなるかわからない気持ち悪さもあり、思い切って校舎裏に行くことにした。

 いじめ、いたずらの類なら返り討ちにしよう。常備している防犯スプレーは……うん、問題なし。

 いざ校舎裏に来てみると、全く見覚えのない女子がそこにいた。

 女子はショートボブで肌が雪のように白かった。

 表情は困ったように眉をひそめており、大人しめの印象を抱いたが、顔つきは美少女と言っていいと思う。

 彼女が安達さんかと問い詰めるも、彼女は困惑した様子でオロオロしていた。

 おいおい困惑したいのはこっちだよと頭を抱えそうになっていると今度は男子がやってきた。


 要約すると安達さんという今私の前にいる女子の友達作りに巻き込まれたらしい。

 しかも私に白羽の矢が立った理由が一人で寂しそうという、すごく失礼なものらしい。

 最初は理解に苦しみ、男の方がなぜか得意げに語った説明についていくので精一杯だった。

 男が去り事情が飲み込めてくると、ふざけた理由で手前勝手な都合に巻き込んだ男に対してひたすら怒りに燃えた。

 ボッチ同士で友達になれ? 余計なお世話だよ。

 私は決めた。

 奴には必ず何らかの形で仕返しをしてやろうと。

 そのためには目の前にいる安達さんから事情を聞く必要がある。

 さっきの話が全て事実なら、安達さんは私を巻き込む一因になったとはいえ奴に巻き込まれた側とも言える。

 だから仕返しの対象というよりは寧ろ親近感が湧いていた。

「安達さん、ちょっと話いい?」

 私は安達さんから今までの経緯を改めて詳しく聞き出すため、未だ心をたぎらせる怒りを何とか抑え込み冷静さを保った。


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