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6-13. Prologue : Retour 《帰還》

◇◆ Ericエリック ◆◇



……



過去への回帰から戻ってくる。

『retourner dans le p過去への回帰assé』は、僕の特殊魔法。



フレデリック兄さんが天に召されたところから始まったこの話はもう、8年も前の話になる。

僕は16になった。冥界にいても心身は成長するらしい。

背も随分伸びた。声変わりもした。癖のない青みがかった黒髪に漆黒の瞳。真っ黒な手袋とローブを纏った僕は、鏡を見ればあの頃のフレデリック兄さんにそっくりだ。



……あぁ……、兄さんがそこにいるようだ。大好きな、兄さん。

兄さんは偉ーい人になったから、僕も簡単に会えなくなってしまった。

冥界の、。『無慈悲な執行者』とも言われている。

僕らはただのwarlock悪魔だから、そのトップともいえるかもしれない。兄さんは現界にいた頃から非魔術師の大学のにいたから、その知識と優秀さをここでもしっかり発揮してしまったってわけ。だから僕や兄さんが冥界に来るのは必然だったんだよ、きっと。


父さんや母さんはここにはいない。彼らは現界に戻ったらしいよ。《死者》としてね。彼らはさ、僕みたいに闇落ちできなかったんだよ、きっと。

だけどその方がこの先救われるチャンスは、ある。現界には、《マリア》がいるから。



そして……やっぱり、この世界の違和感の鍵は魔術師が握っていたわけだ。



ふっ……はは……っ

……っは……、あっははははははっ……!



……そうだ……やっぱり、そうだよな……!

なぜ、《マリア》なのか。なぜ、《ギリシャ神話》なのか。



なぜ、僕が " warlock "なのか。



そういうことだったんだ。僕が冥界に来た後の、鍵を握っているであろう人の過去を回帰してわかった。

『10年内にこの混沌の世界は終わりを告げる』と言うのは、その言葉のままだ。

残りのタイムリミットは2年に迫っている。



……



神話はさ、んだよ。君たちの《西暦》を崩壊させたのもそう。君たちは神話の続きってわけ。


……どういうことか。神々はさ、今まで何回も人間滅ぼしてるんだよ。

そもそもギリシャ神話は、神々のいる《黄金の時代》から始まって、君たちの生きる西暦の時代は第5世代、《鉄の時代》と言われていただろ。

……え? 知らない? " ググって " みてよ。ははっ、ごめんごめん、君たちの時代の言葉を使ってみたかっただけだよ。そんなに怒らないで。

つまり、君たちは第5世代だからそれまでに4回は滅びてる。それで、今は聖暦。君たちの時代が滅びてからまた何度か滅ぼされてるから、時代の名称も変わってるんだよね。それもいつのころからか、偽りの神によってさ! 信じらんないだろ。



神々がなんで人類を崩壊させたかって? さぁ……それまでだって、人が増えすぎたからとか、気に食わないからって理由で滅ぼしてるんだから、特に理由なんかないんじゃないの。……だけどそれはいつからか、ゼノ様がそれを担うようになる。それが問題だよね。

いつからそうなっていたのかははっきりわからない。ゼノ様の正体は僕にもわかんないから。


……この人の正体だけは、過去をさかのぼってみても阻害されて見ることはできなかったんだ。まぁ、僕たちの魔法はゼノ様から授けられているものだから。自身のことは見られないようにすることなんて、ゼノ様にとっては造作ないことなんだろ。

だけど16年前に起きたこの世界の半壊だって、なんの意図があったのか知らないけど、この神々のせいでかなり大きな被害が出た。

神は……人間をなんだと思ってるんだろうな。



……



それからさ、マリアに捧げられた大聖堂がある場所。君たちの西暦からずっと存在しているのってすごいよね。あの場所がどんな場所か知ってる?

あの場所はさ。

……あの大聖堂が建つ前は、ユピテル神殿があった場所なんだよ。つまりあそこは、ユピテル神域だった。ユピテルってローマ神話に出てくる神なんだけど、。つまり、元々その時代の最高神の為の場所だったってこと。これも" ググッたら " 出てくるよ。……っははっ、便利だね、この言葉!

だから混沌なんじゃないの。これが偶然だと思う?

……だからさ、は重要な場所なんだよ。

だけどその" 神話 "は現在ゼノ様の手によって再現されているだけであって、本物じゃない。それも絶対王権に近いじゃん。誰もゼノ様に逆らえない。あんな理不尽なルールだって……

……。

だからねじれが生じてる。統治するのはゼノ様、人々が崇めるのはマリアだと。




この世界は君たちから見たら、気の遠くなるくらい先の未来ってことになるんだけどさ、こんなめちゃくちゃな未来の世界、どう? あっはは、嫌だよね! 僕ならこんな混沌に満ちた世界、なんとかしてほしいと思っちゃうよ。


だから棲み分けが必要なのに、天界が閉ざされているせいで、魔術師も非魔術師も、生者も死者もごっちゃになってるってわけ。僕としては、天界に本物の神々がいるんじゃないかとも思ってる。……なんの根拠もないけどね。


……だからさ。いい加減、ゼノ様が作った" 神話 " は終わらせなければならない。僕たち魔術師は、本来いるわけなかった人種なんだから。



……



……ゼノ様以外の魔術師たちって、ゼノ様の思惑に巻き込まれてるなんじゃないの。だって、みんなゼノ様に魔法を授けられるっていうことは、そういうことでしょ。

それに、リラさんやリスさん、リアム先生みたいな下位神たちがまだ若いのも、今まさに神話を再現している途中だからってことなんじゃないかな。《ゼウス》ゼノ様や《アポロン》アルベール様はいつからいるのか知らないけど、《アスクレピオス》リアム先生は過去のあの時点で26だった。26だって! すごいよな、今の僕と同じ年齢の16で医者、18で、親。まだまだ先生だって子供でいてよかったのにさ。早くに大人にならざるを得なくて、大変だっただろうな。まぁ、あの人も《アスクレピオス》で半神だから半不老なんだけど。だから8年経った今もあの綺麗ーなご尊顔のままだよ。アルベール様だってそうだったじゃん。何万年も生きてるのに『我々神は老いない』って、言ってたでしょ? あの家系はさ、20を過ぎると外見の成長が止まっちゃう、そういう家系なんだよ。

え? アンリさん? あの人は外見に興味なさすぎるだけなんじゃないの? 知らんけど。っていうか、元々大体ああいう顔してたよ。ずっと前からね。アンリさんの《ヘパイストス》って醜いことで有名な神様でもあるから、そういうもんなのかなって思ってたけど。ま、そんなに興味ないけどさ。


……話は逸れたけど、ギリシャ神話の神が今のこの時代に全員いるのかさえ怪しい。まだ再現しきれていない可能性が高いよね。




破壊して、やり直して、たどるのは同じような景色。

今、第何世代になるんだろうな。何度、同じような歴史を繰り返した?いや、これからも繰り返すのかな。

きっとさ、既視感があったでしょ。自分たちの世界に似ている部分があるかもしれないって。この言葉、この雰囲気、知ってるって! やっぱりさ、同じような歴史を繰り返してるんだよ。

いや、もしかしたら故意に似せてるのかな?


……君たち " 西暦 "の人の誰かが、ゼノ様だったりしないの? 滅びてしまった " 西暦 "をやり直したいがために、本物の神話の神は排除……つまり天界みたいなところへ軟禁し、力だけを利用して……


なんてね。




……




……あぁ、あと一つだけ。なんでこのお話が群像劇だったか、わかったでしょ?

全ては

特殊魔法って面白いんだけど、段階的に進化するみたいなんだよね。リアム先生だってそうだっただろ。あの先生の『蘇生』は、死者すらも蘇生できるものになってしまった。あの先生には僕もお世話になったけど、やっぱすごいよな。……あの人は多分、1番真相に近づいてると思う。だけど大事な人の為ならあの人の身の全てを呈してしまいそうで………あぁ、ごめん。つい先生の話になると熱くなっちゃうんだよ。僕、あの先生のこと応援してるんだよね。きみたちの時代で言う『推し』ってやつ? 使い方違う?……フレデリック兄さんが天に召されたとき、僕に寄り添ってくれた唯一の大人だったから、ね。

……えーっとまた話が逸れたけど。まぁつまり、他の人の特殊魔法も段階的に進化していく可能性が高い。


そして僕の特殊魔法。過去で見た8歳時点の僕は、僕を基軸とした過去しか見られなかった。それもたったの20秒。だけど今は時間の縛りもなければ、その過去の人が何を考えているかだって手に取るようにわかる。過去に存在している君たちの考えていることだって、視ようと思えば見えるかもよ。怖いだろ? こっちに来んなって? あっははっ、ありがとう、それは誉め言葉ってやつだよ。僕はwarlock悪魔なんだから。



《マリア》と呼ばれる彼なら、この真相に近づいてるんじゃないかな。

僕の大事な幼馴染……彼は僕の事、覚えているかな。

忘れちゃってても、いいけれど。



あんなに天使のようにかわいらしかった彼も、随分と精悍な顔つきになったんだよ。まぁ僕から言わせれば中性的で儚げな雰囲気はそのままなんだけど。でもあいつも16だし。

……あの日決意したときから、あいつは変わった。柔和でいながらも凛として、リアム先生にも似てきたように感じる。親子ってさ、血が繋がってなくても似てくるのかもしれないね。

あいつのそういう真面目でまっすぐなとこ、いいと思うよ。

世界をさ、してくれるんじゃないの。



……



歴史も文化も、大事なものはずっと語り継がれるってわけで。

そのままの形で受け継がれていくものもあるかもしれない。

……もしかしたら多少その持つ意味は変わるかもしれないけれど、根幹の部分はきっとこれからも変わらない。




……ねぇロン。この混沌の世界を救ってみせてよ。

魔術師も非魔術師も、生も死も入り混じった、このめちゃくちゃな世界を。

聖主導者と呼ばれる、君が。

僕も手伝ってやるからさ。

だって……君と僕とは幼馴染じゃないか。



……




ふふっ、じゃあね。僕ももう行くよ。仕事があるから。

……悪人の魂を冥界へ連れ去るっていう仕事がさ。


このお話の終わりは、いわゆる始まりっていうやつ。

世界が動くのはこれからが本番だってこと。

……だけど残された時間は、あと、2年。

世界が終わるのか、混沌が終わるのか、君たちの目で確かめてみてよ。




でもさ……答えは全部あの場所と、過去の歴史神話の中にあるんだって、君たちだってわかってるんでしょ?




END


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