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ep.6-10 Statue de Marie 《マリア像》

◇◆ Noah ◆◇


俺はふと、マリア像を見る。


……。


「なぁ、ロン」

「なぁに」

「ロンも、死者が視えるのか?」

「さっきの、ガエルさんの研究の話?」

「ん、そう」



ロンの金色の瞳は俺をまっすぐに見ている。

この眼は……。視えてるな



「視えるよ」

「やっぱり」

「ノアは視えてるの?」

「いいや。俺はさっぱり」

「……そうなんだ」



ロンは少し残念そうな顔をしたけど、見えないものは仕方がない。

だけどロンは、死者が見えていた。あれから死に瀕することなんかなかったから、きっと生まれてからずっと見えていたのかもしれない。

ロンは話を続ける。



「この間、ある論文を見て思ったことがあるんだけど、きっといつか、エリックにも会えるんじゃないかって」

「エリック……」

「死者が視えるって言うことは、そういうことでしょ」

「まぁ、そうかもしれないけど。天に召された人も、視えるのかな」

「視えるよ、きっと。それから、ノア」

「ん?」

「ふふ、いつもありがとう」

「なんだよ、急に」

「なんとなく」

「へへ。まぁ、なんかあったらいつでも頼れよ」

「うん……うん、ありがとう」



ロンを見る度に、使命が重すぎるよなぁと、改めて思う。


……



真っ白なマリアの像を見る。



《マリア》…………



「なぁロン、こっち向いて」

「うん?」

「……」

「……?」



……純白で廉潔な、マリアの像。

ロンは、今はまだ子供だけど、もう少し成長して同じような服とベールを纏えば、正に生きたに見えるかもしれない。


何千年、何万年も、人々の希望の象徴であり続けたが、今のこの世界のマリア。

この世界の人たちが、『この世界を正しく導く者』を《マリア》と呼ぶのは、先の時代からずっとこの町を見守り続けている、この真っ白なマリア像に希望を見出すからだろう。


だからロンは、肌も髪も純白で、瞳にだけ金色があるのだと。だから、ロンの祈るような姿は、まさにマリアのようだと言われるんだ。この世界の人々にとって《マリア》といえば、ずっと大切にされ続けてきた、この像だから。

きっとロンはその眼で、人々の善も悪も、全てを見透かしてしまうんだろう。



はるか昔にされた、アルベール様の大予言。俺もずっと見守ってきたけど、長かった。

……に命が宿ったかのようで、嬉しかった。



「なに?」

「なんでもない」

「……変なノアだ」

「変じゃねーし」

「あっはは」



ロンなら、この世界を正しく導いてくれるって、そう思う。だけどそれにはまだ子供すぎる。

……この世界を正しく導く鍵は、この大聖堂にある。ロンはもう、気づいているかもしれないけれど。

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