◇◆ Noah ◆◇
多分……これは俺しか知らないこと。
まず、あの9年前の天災発生時。
まだ
その防衛魔法の範囲は恐らく国全体占めるほど。だから今回のこの大天災で死亡を含む被害に遭った人は、二次被害によるものの方が圧倒的に多い。カミサマ、正直びっくりしたんじゃないか? もちろん物凄く揺れたし、雨も雷もやまないし、物凄い大惨事だった。物はめちゃくちゃになり、造りの甘い建物から倒壊していった。それによって怪我をする人も大勢いた。けど、あいつの加護に守られるかのように、この時点での死傷者は、きっと誰もが想像するよりもはるかに少ない。
だけど、天災発生から丸1日経って、漸くロンが生まれた。……明らかに早産だった。だけど、その天地を揺るがす大天災は、あいつの誕生を待っていたかのようにぴたりと止んだ。
それでその直後にあいつがやったのが、安全確保のための人々の空間転移魔法。これはきっと生まれてからじゃないと使えないものだったんだろうな。位置関係の把握とかも結構難しいから、赤子がやってのけるのですら驚異的なんだけど。だけど、明らかな
そうして人々の空間転移は大聖堂を中心とした一帯ほどに留まり、それまで張っていた防衛魔法も、切れる。そして二次被害が続出することになる。持ちこたえていた建物も次々と倒壊し、余震によりさらに被害は広がった。
だけど傍から見ればロンはただの赤子。両親からしたら、天災のショックで早産で生まれてしまって、医療機器の整わないこの状況で、今にも死んでしまいそうに見えたことだろう。俺はロンがそれまで尽力していたことを知っているけど、災害発生による混乱で加護に気づいた人も殆どいなかっただろうし、きっとこの事実を知る者は俺以外にいない。
そうしてロンが人々を安全な場所へ空間転移させておいて、自分はあの場所に留まった理由。それは、あの状態でロンまで空間転移なんかしたら、俺の加護がロンを追えなくなり、ロン自身すぐにでも死に至る可能性の方が高かったからだと思う。俺はロンほどの魔力はないから、正直国全体を防衛魔法で覆うなんて無理だし。つまりはそれほどまでにギリギリの状態だったということだ。ガエルさんの研究で言う『死に瀕するほど』という事なんじゃないかな? 俺は回復魔法や医療魔法を専門とするわけでもなんでもないから、あいつ自身が一時的に仮死状態となることを選択したんじゃないかとも思っている。……俺の想像にすぎないけど。そうでもしなきゃ、加護だけでどうにかなるような問題じゃない。だけど、それがなければ生き延びられないような状況だったんだろうな。
……産まれたばかりの赤子がこんなことできるなんておかしいと思うだろ。だけど、これこそが真の《マリア》の力でもある。これでもまだきちんと発現できていないのだから、末恐ろしいとはこういうことだ。カミサマがロンの魔法を刻印で制御したのは、祝福しながらも、どこか畏れたんだろうな。大きすぎる力って、個人で持ってしまうことほど厄介なものってないだろうし。
俺はロンを信じているけど、もしもこの大きな力の使い方を誤ったら、どうなると思う? 制御できずに暴走したら? 考えただけでも恐ろしい。だから、刻印はある意は必要不可欠だったともいえる。俺はこの刻印が魔法制御のもの、ということしか知らないけど、あの刻印には何か隠されてる気がするんだよな。