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ep.6-1 Mythologie grecque 《ギリシャ神話》

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昔々、《医術の神・アスクレピオス》はそのとびぬけた医術の才で人間を生き返らせました。

しかし《冥界の神・ハデス》は、これを「生老病死を乱す者」として《全知全能の神・ゼウス》に強く抗議し、それを聞きいれたゼウスは雷霆でアスクレピオスを撃ち殺してしまいました。ですがその後、ゼウスはアスクレピオスを不憫に思い、その功績を認めて彼を天にあげてへびつかい座とし、神の一員に加えてやることにしました。


……逆に怒りが収まらなかったのはアスクレピオスの父である《太陽の神・アポロン》です。

彼は息子が殺されたことに怒り、しかしその矛先を父・ゼウスへ向けることはできず、代わりにゼウスが使ったとされる雷霆を作った者たちを皆殺しにしてしまいました。


そうしてアポロンはゼウスに罰せられ、しばらく人間界で家畜の世話をさせられました。



―ギリシャ神話 (※)


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◇◆ Ronロン ◆◇


……僕は、焦っている。



アルベール様が大変な予言をしてから半年。

今は9月下旬で、僕は4年生になっていた。


アルベール様は半年前のあの日、僕とリアム先生に『10年以内にこの混沌の世界は終わりを告げる』と予言した直後、これと全く同じ内容を、不思議な力でこの世界の住民たち全員に告げた。それはまるで、アルベール様が直接僕たちの脳に話しかけているような、そんな感じだった。



……これは衝撃的なニュースとなった。

しばらくの間、町は大混乱を極めた。



『混沌の世界が終わりを告げる』というのは、この世界自体が終わってしまうのか、それとも混沌が終わるのか……どちらともとれる予言だった。


だけど今更この大予言がなされたのは、やはり《マリア》がこの世界に現れたことが要因なのでは……と、きっと『混沌が終わるのではないか』という見解が色濃くなった。




それはつまり、僕が、この混沌を終わらせてくれるんじゃないかっていうこと。




「いずれ混沌の世界から正しい世界へ導く者……《マリア》が現れる、と予言したのも余だ」



そう言う、アルベール様は悦に入ったような表情で僕を見ていた。

……この人、一体いくつなんだろう。だって、この予言は何千年も前のものとさえ言われている。

僕が驚いて動けずにいると、アルベール様は形の良い唇の口角をあげてにやりと笑い、そのまま僕の目をまっすぐに見た。



「ほら、ちゃんと現れたであろう」



そう言って。その時の顔は、してやったり、というような、いたずらっ子のような表情だった。

だけどそれはもう目を見張るほどの綺麗なご尊顔で。目を細め白い歯を見せながらにやりと笑う顔ですら太陽のように美しい。だけど、いくら茶目っ気のある表情をしても、パールブルーの両目は僕の反応の全てを見透かしてるようでもあった。リアム先生と顔の造りはそっくりなのに、凛とした品のある顔つきのリアム先生と比べると、アルベール様はずいぶんと華やかに見える。


驚いたまま動けない僕の近くに歩み寄ると、僕の刻印の辺りを慈しむように眺めながら指先でトントンと触れると、「この刻印は……」と話しかけたところでリアム先生が制した。



「お父様、その刻印については私からロンに話をします」と言って。



だけど、その話についてはまだ聞かされていない。




……




この刻印は、一体なんなんだろう。

強すぎる魔力を制御する以外のはたらきがあるのかな……?




そうしてアルベール様は、ふふ、と笑ったかと思ったら

「良い、良い。ではの。きちんと告げたからな。余も多忙故、帰らねば」

と言ってそそくさと帰る準備を始めてしまった。リアム先生とは約10年ぶりの再会だったはずなのに、それはもう驚くほど短時間の会合で。

だけど、帰る間際に先生をぎゅっと抱きしめたアルベール様の表情は、正に天使のような美しさで、伏せた長い睫毛の合間から覗くパールブルーの瞳は少々うるんでいたようでもあり、全身から愛おしさがにじみ出ていた。


そうして「リシャール、よく、あの拷問を耐えたな」と先生に微笑みかけたかと思ったら……消えてしまった。




……きっと、アルベール様にとってもリアム先生は、とっても、大切だったんだね。




そんなアルベール様は、あれから一度も現れていない。

先生は、「お父様はご多忙なのだ」と言っていたけど、それは少し寂しそうでもあり……なんとなく悲しそうな、そんな含みを持っていた。




※参考文献

ギリシャ神話とオリンポスの神々: 世界中で語り継がれる神と英雄の壮大な物語

著者:世界の神話と伝説研究会


面白いほどよくわかるギリシャ神話:天地創造からヘラクレスまで、壮大な世界神話のすべて

著者:吉田敦彦

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