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5-10. Prophétie 《予言》

◇◆ Ron ◆◇


ガエルさん……なんだかおもしろいお兄さんだったなぁ。

今日はリアム先生がなるべく定時で帰ってくるって言ってたから、僕もその前には家に着くようにケヴィン先生の元を出た。


そうして家に着くと……僕はびっくりしたんだ。

前に見た、天使みたいな神様みたいな……その方が、家いて!

「よっ」と、気さくに話しかけてくるものだから僕……固まっちゃった。

アイボリー色の、肩ほどの長さのウェーブがかった髪をなびかせて、相変わらずすごく綺麗な顔をしていて、神々しくて……この世の人ではないみたいだ……


だけど「リシャールは?」と聞かれて我に返った。



……リシャール?さっきの論文の表紙に書いてあった名前と一緒の人……?



「余はアルベール。アルベール・シュヴァリエだ。今日は久方ぶりに会いに行くとリシャールに伝えていたのだが」

「あの……リアム先生……じゃなくて、リシャールさんですか?」

「………。あぁ。そうだった。今はリアムという名になったのであったな」

「えっ……と、どういう……」


そのアルベールと名乗る神々しい人は、一度天を仰ぎ、そのまま地を眺めたかと思ったら、長い睫毛を伏せたまま大きなため息をついた。

その行動一つ一つが美しく、絵になるようだった。

そうしてまた視線を僕に戻す。


「リシャールは8年前に神々の審判を受けてから名を変えたと聞いておる。神は、彼奴が現界へ戻ったらまずケヴィンの元へ行くこと等お見通しであったようだな。ケヴィンにのみ、新たな名を伝えていた……もしくは、ケヴィンが名付けたのやもしれぬ。蘇らせた死者からは記憶は消したが、リシャールが残した文献は既にいくつも世に出回っていた」


……彼奴は昔から若くして有能なのだ、と言うアルベール様は、どこか懐かしむようでもあり、どこか慈しみ、哀しむようでもあった。


「……念には、念を。《リシャール・シュヴァリエ》は8年前に神々による審判で死んだということにした。そうして彼奴のを皆の記憶からも消した。死者を蘇らせる者が現界にいてはならないと。神々は彼奴の『死者を蘇らせる』という記憶とそれまでの名を、消し去ったのだ。そして名を変えても、それまで《リアム・ロアン》として存在していたことに、誰も疑問を持たぬように」


……先日、先生が言ってた話だ。

『神による審判があった』と

そんな……ただ、無罪だったわけじゃなかったんだ……


「で、リシャールはまだ帰っていないのか」


アルベール様が、ずいと僕を見る。

……随分とご尊顔が近い。


「僕も今帰ったばかりですが、多分まだかと……定時にはあがれるように帰ってくると言っていましたけどたぶんもう少し遅くなると思います」

「彼奴も真面目だからの。ちゃんと休めと言っておけ」

「さっきケヴィン先生にも言われました」

「はは。皆彼奴には休んでもらいたいらしい」


笑った顔がまぶしい。だけど……どこかリアム先生に似ている……気がする。

僕が見ていたのを察したのか、「余が誰なのか、気になるのであろう」といたずらっぽく笑った。


「アルベール様は……リアム先生とどのようなご関係なのですか」


勇気を出して聞いてみる。そしたら「んーん?秘密」……と、言いながら、片手で頬杖を着くようにして、もう片方の手で僕の胸の刻印の辺りを指でなぞる。この間会った時も、そうしていた。ちょっと、くすぐったい。

そうして口元には微笑みを携えたまま、さっと眼光だけが鋭くなって


「当ててみよ」


と、言った。先ほどまでの悪戯っぽい雰囲気から一変して圧倒的荘厳な雰囲気になる。

まさに、一瞬にしてオーラが変化したかのようだ。

……このパールブルーの鋭い両目。20~30代くらいに見えるこの雰囲気は……


「リアム先生の……お兄さん……?」


「ぶっぶー!はずれ!正解は父だ。だから卿は余の孫」

「えっ……えぇっ……孫……?」

「当たり前であろう?子の子は孫と決まっておる」

「だけど……」

「おっと、血が繋がっていないとか野暮なことは言うなよ。我らは特殊魔法で繋がっておる。まぁ、そんなもので繋がっていなくとも、卿は余の孫だがな」



アルベール様の綺麗な手が僕の頬を愛おしそうに撫でる。先ほどとは打って変わって慈しみに満ちた表情だ。だけどやけに顔が近い。綺麗な顔がこんなに近くにあると緊張してしまう。

……いや、若干距離感が近すぎる気がする。家族って、こういうものなのかな。

先日たまたま会った時も、本当はリアム先生に話があって会いに来たところを僕と遭遇してしまったらしい。今日も話があると言っていた。どんな話なんだろう。



「まぁ、だからそんなに畏まらなくてよい。余は偉ーいのだが、『おじいちゃん』って呼んでも良いぞ」

「え」

「え!……ま、まさか……呼んでくれないと……?」

「えっ……あの、……いいんですか……」


おじいちゃん……おじいちゃん?この人、一体、いくつなんだろう。

見た目では20~30代くらいにしか見えないし、この人のテンションがいまいちわからない。


僕の疑問を察したのか、「我々神は老いないからな」と、言った。

やっぱり……神様だったんだ……


「で?おじいちゃんって呼んでくれるのか」


本当は、おいくつなんだろう。こんなに若くて綺麗な人をおじいちゃんって呼んでいいのか迷ったけど……

キラキラと輝かせたパールブルーの両目をこちらに向ける、純新無垢に美しいその方を「おじいちゃん」って呼んだ。

そしたらおじいちゃんは満面の笑みで、微笑んでくれたんだ



* * *



そうして暫くしてリアム先生……お父さんが帰ってきた。

玄関の戸が開く音を聞くなり、アルベール様……おじいちゃんは、「リシャール!!!」と嬉しそうにお父さんを出迎えた。

本当にお父さんのことが大事なんだなって、そう思った。


お父さんは「ただいま……」と言いかけて一瞬驚いたかと思ったら、おじいちゃんが勢いよく飛びついたので二人一緒になって転んでた。ちょっと可笑しくて、微笑ましくて、僕も一緒に笑った。


おじいちゃんとお父さんが再会したのは、実に10年ぶりだったんだって。

お父さんが神様の審判に掛けられている間も面会できなくて、その後も一悶着あったらしいけど、詳しくは教えてくれなかった。

そこは《大人の話》なんだって。



「それより今日は大事な話がある」



そう言っておじいちゃんが切り出した話はとんでもなくとんでもない話で……



「おほん。余はギリシャ神話における《アポロン》が如く太陽の神であると共に予言の神としても有名であるが。今日は久方ぶりに予言を伝えに来たので心して聞け。『この先10年以内に、この混沌の世界は終わりを告げる。』伝えたぞ。故に、卿らでなんとかせよ」




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