- N大学病院救急部 -
◇◆ Rémi ◆◇
午前中の急患オペが終わって、私は遅い昼休憩をとっていた。もう午後3時近い。
購買で買うのは大体決まってサンドイッチとブラックコーヒーだ。
今日ガエルに言われたことを反芻する。
思い出せない8年前のことと関係がある気がする。
『réa
………。
思い出せない。……だが、この欠けたパズルのピースが少しづつ形を為していくこの感覚はなんだ……
……大怪我、か……。
……。
だがリシャール・シュヴァリエとは一体何者なのだ。彼
魔術師の医師は今や物凄い人手不足と言われている。だがリアム先生が一人で全員を診きれるわけがない。シュヴァリエという医師や他の医師がいてもおかしくはない。『蘇生』でなくとも似たような魔法が使えることもあるのかもしれない。
だけど……そんな論文は見たことがない。シュヴァリエという名の医師もだ。
8年以上前に書かれた論文。もしそれが本当ならその医者は私と同年代かそれ以上の医者ということになるだろう。論文を出しているような医師であれば学会で会ったり名前を見聞きしたことがあってもおかしくはないのだが……8年前の災害で巻き込まれて亡くなっているという可能性……?
……。
……先日ギヨさんの処置の際に見たリアム先生の『réa
リアム先生の顔が頭に浮かぶ。
色白な肌に、白とパールブルーの厳格そうなオッドアイ。そしてアイスブルーの厳しそうな眉ときちんと整えられた髪……彼は物凄く整った顔をしていた。眉目秀麗とは彼のためにある言葉なのではと思うほどに。医者やってるの、勿体ないよ……そして、彼の『réa
だがその綺麗すぎる容姿に淡々とした話し方はなんというか……第一印象として人間離れした冷たそうな印象を与えた。これが魔術師なのかと勝手に納得していたけれど。でも、話せば意外と温厚で。
……思うのだが、魔術師ってみな非魔術師とは顔の造りが違う気がするんだよな。なんというか、そろいもそろって造形美の如く整った顔をしていてそれはまさに……
……いや待て、ちょっとそれは考えすぎだ。
そう、思っていたその時。
「レミ先生、急患です!【脳幹部魔導基部壊死】の患者なのですが受け入れられますか」
……脳幹部魔導基部壊死……もしかしたら、術後処置に誰かしら魔術師の医師が来るかもしれない。だが最近多い気がする。今まで4年間お目にかかったこともなかったのに……
「ほかに執刀できる医師は?」
「救急部で執刀経験があってすぐに入れる先生はレミ先生だけで……あとは脳神経外科の先生が一人助手で入って下さるそうです」
「わかった……今行く」
そう答えて私は残りのサンドイッチをブラックコーヒーで流し込み、執刀に備えた。
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- 総合病院 手術室 -
◇◆
昨夜から【脳幹部魔導基部壊死】の患者が多い。昨日N大学方面から禍々しい魔力を感じたが、あれが原因だろうか。
ここでの手術が落ち着いたらN大学附属病院へ向かわなくてはならない。
……
魔術師の医者が、足りない。
これは私のせいなのだ……
開頭から魔導基部の露出までを最短時間で行う。
壊死した病巣が見えればあとはすぐだ。
壊死部から漏出した腫瘤状の魔力を摘除する。そして
特殊魔法『réa
……
「魔導基部の『蘇生』は完了。脳浮腫が見られるため閉頭せず閉創。術後ICUにてステロイド投与。N大学病院でも同様の患者が待っているのですみませんが閉創と指示はお願いします」
助手の先生にあとのことを任せて引き継ぎをカルテに打ち込み、私は総合病院を後にする。このあたりの魔術師の医師は私しかいない。
……私は自分が『精密機械』のようだと言われているのを知っている。淡々とした、正確すぎるオペ。だがこの深刻な医師不足でピードも速くなるのは致し方ない。
この医師不足の原因は、以前ジル先生が言っていた感情云々の話ではない。
……まったく関係ないわけではないが、ジル先生は勘違いをしている。
…………。
……私以外の魔術師の医師を