目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報

4-11. Carrière 《経歴》

◇◆ Gaël ◆◇


大学の別棟があんなことになってしまったので、レミ先生と別れた後俺は避難誘導され、そのまま大学を後にした。

本当は大聖堂へ行きたかったんだけど、テロの可能性もあって危険だから直帰するように、とのことだった。

ちぇ、ノアとも話をしたかったのにさ。

だけど大学から寮へ帰ってポストを見て驚いた。中にはなんと、フレデリックからの手紙が入っていたんだ!


さっきレミ先生もフレデリックを見たって言ってたし、なんだよお前……生きてたんじゃないか……

今、どこにいてなにしてるんだよ……なんで、突然いなくなって……連絡くらいよこせよ……って思ったけど、この手紙がその連絡なのか、と思ったりした。



真っ白な封筒に書かれたフレデリックの直筆を見て、じーんとしてしまった。

天に召されたのは、誤報だったんだ……

フレデリックからの手紙。破けないように丁寧に封を切る。手紙を開ける手が汗ばむ。


封を開けて出てきたのは、2枚の手紙だった。

安堵したのも束の間、手紙を読んで俺は真実を知ることとなる。



「……なんだよ……なんだよこれ……嘘……え……っ、どうしよう……」



その手紙に書かれた内容に驚きを隠せない。

……狭い学生寮に一人暮らしだから隠す相手なんかいないけど。



誰か……誰か、相談できる人……

真っ先に浮かんだのが、先ほどフレデリックについて話をしたレミ先生だった。


「れ、れみ、れみ先生……っ」


俺は慌てた気持ちが落ち着かないままに先生に連絡を入れたら、その日の夜遅くに返事が来た。あれからずっと仕事だったらしい。

お疲れ様ですよ……先生……


そうして翌日の早朝、会う約束を取り付けた。


- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -


- 冥界 -


◇◆ Frédéric ◆◇


ヘクター様……ヘクター様こそ、ここ《冥界》を支配する神だ。


ヘクター様へ直接謁見する機会はないから、いつも伝令してくれるのはジルさんだ。現界では《共同魔法研究所》の室長で有名だが、彼女は普段は冥界にいてヘクター様との伝令役をしている。



「……ご苦労。エリックくん、初めての任務はどうだった」

「……」

「おや……ずいぶん嫌われてしまったようだな」



エリックとジルさんの間で何があったのかは知らないが、エリックは何も言わずに俺の後ろに隠れてしまった。

俺たちの任務。マティスの魂を断罪し、冥界へ連れ去ること。あとはそれをジルさんに引き渡したら俺たちの仕事は終わり。そこから先はどうなるのか、詳しいことは知らされていないがここは冥界……待ち受けるのは永遠の地獄だ。


……。


この先を思うと少しだけ、気の毒な気もしてきた。

いや、だけど気を強く持たなくては……悪いやつなんか、いらないと。


これで、よかったと。リラとリスは、守られた。俺はこの先 《悪魔》として生きることを決めたから、もう元には戻れない。



どうか、彼女たちが幸せに過ごせますように。



それから、俺は先ほど現界で一人の男性とことが気になって、ジルさんに聞いてみることにした。


「ジルさん、聞きたいことがあるんですが、現界に俺たち《冥界魔術師》が見える人間って死者以外にもいるんですか?」

「……何かあったか」

「先ほど現界へ行ったときに、一人の非魔術師と目が合ったんです。たまたまこちらを眺めてたというより、確実に俺たちを見ていたような、そんな感じがして」

「相手はどんな人物だった」

「こげ茶の髪にヘーゼル色の瞳をしていました。白衣を着ていたので医療者かと。N大学病院の」

「……」



ジルさんはそのまま黙ってしまった。話していいのか迷っている様子だった。

……だけど少し間があって、ジルさんは話をしてくれた。



「おそらくそれはレミ・コストという医者だろう。彼は、。過去に死の経歴がある者には、《死者》が、視える」



Continue...


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?