- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
この間来たお兄さんはフレデリックさんと仲が良かったんだろうな。
すごくフレデリックさんのことを、思っていた。
……なんとなく、雰囲気で、そう思った。
信頼しても、いいのかもしれないと。
そうしてリラさんとリスさんの話……
……
遺された者は遺された者同士、きっと助け合ってやっていかないといけないんだ
―ノア
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
-冥界-
◇◆
俺は、未来を変えるために冥界へ来た。
……非魔術師の大学に通うようになって、多くのことを知った。
非魔術師の仲の良い友達もできた。みんな、いい奴だった。一緒にいる時間が楽しくて、前よりももっと非魔術師が好きになった。
毎日、楽しかったんだ。
……だけど、いい奴ばかりじゃなかった。そこに見え隠れする善と悪
……
今は1月。……
俺はこれ以上危険なことに大事な人たちが巻き込まれることが、耐えられなかった。
俺は冥界に来てからもう半年になるが、天に召される直前の7月に、リラとリスから相談を受けていた。「ストーカーに遭ってるかもしれない」と。
非魔術師にとって魔術師は珍しいからなのか、俺もストーカーのような被害にあったこともある。カバンの中から見知らぬGPSが出てきたことも。それらの犯人は、全てマティス教授が裏で手を引いていた人物だったのではないかと推察する。
……教授は大学以外の研究施設にも出入りしていた。そこには色々と特殊な実験装置もあるようだった。
大学に通っていた時、マティス教授から『研究のことで魔術師である君に協力してほしい』と声をかけられたのが最初だった。それが、昨年の3月頃の出来事だ。
俺はこのN大学に通う魔術師としてちょっとだけ有名だったから、別に俺が魔術師だと知られていてもおかしくはない。
その研究施設は主に『魔術師について医学的に理解を深めることで、非魔術師の医師でも魔術師の命を救う』ことを理念として掲げていた。確かに、魔術師特有の疾患として有名な【脳幹部魔導基部壊死】は、最早『réa
最初は、非魔術師もこうして魔術師を理解して互いに支え合う姿勢は、なんてすばらしいんだろうと、思った。
俺たちは《基本魔法》に関してはとりわけ守秘義務を持たないから、自分が協力できる範囲でならぜひ協力したいと……そう思ったんだ。
基本魔法は、昔から非魔術師にとっても身近でポピュラーなものだから問題ないと。大災害の時に役に立ったのも、多くは水や火などの自然を操る基本魔法だったからだ。実際に基本魔法に関する文献はいくつも出ている。
3月に声をかけられてから暫くして、最初は《基本魔法》による魔力のエネルギー測定、魔力使用時の脳波測定などが続いた。そうして《特殊魔法》へ……だけど《特殊魔法》はそうやすやすとお披露目していいものではない。
だけど見られないと知った途端、急に粘着質になったような気がする。「一度でいいから見せてくれ」「君の《特殊魔法》はなんなんだ」と。
そして俺から特殊魔法について引き出せないと分かると、今度はその矛先が俺からリラとリスへ向かった。それが……7月。俺が彼女たちと会った時に、俺の鞄に知らないGPSが仕込まれていたらしい。
……俺のせい、だったんだ、彼女たちがストーカー被害に遭うようになったのは。
リラとリス。二人は俺が教会で出会った、大事な幼馴染だ。大災害の後から一緒に育った、きょうだいのような存在。だから大学生になった今も時々3人で会っていた。だけど、それが原因で……
……。
そして俺は彼女たちのストーカーの実情を知るべく、『pré
やはりその犯人はマティス教授の研究所の者で、彼らは恐ろしい計画を企てていた。
そしてその計画……
あいつは、現在は魔力測定にとどまっているが、ゆくゆくは魔術師の人体実験をも視野に入れていた。それは俺たち魔術師特有の器官である【魔導基部】を生きたまま得るために。
……その目論見を実行するのが、今、1月だった。
俺たち魔術師は死んだら体を残さずに消失してしまうから、魔導基部を調べようと思ったら生きた魔術師のものを調べるしかない。
……許せなかった。
俺自身も、マティス教授も。
『pré
こんな計画、絶対にさせない。
……だから俺は冥界へ行くことを選んだ。
俺が見た未来を変えるために。魔法が剥奪されれば、俺の『pré
彼女たちには、7月に起こることは避けられない……だけど1月、本当に危険なことからは俺が絶対に彼女たちを守ると、誓った。
現界にいては変えられない運命ならば、冥界から力づくで変えればいい
未来予知、なんて…………
……。
だが冥界へ来た理由はそれだけじゃない。
エリックの件もそうだ。
…………俺たちはここで、やらなければならないことがある。