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ep.4-3 Irréaliste 《非現実的》

◇◆ Hervéエルヴェ ◆◇


以前サンプリングした魔術師ギヨさんの【漏出した魔力の塊】というものを調べてみて、わかったことがいくつかある。


まず、これを可視化するのは不可能だということ。

理由はいくつかあるが、不思議なことにこれには実体がない。単に気化しているわけではないのだ。エネルギーは観測されるために確実にそこに何かがあるはずなのだが、特殊な実験にて絶対零度まで下げたとしても凝縮することはないことがわかった。


それなのになぜ《急性脳幹部魔導基部壊死》が起きた際にこれが魔導基部を圧迫するのか、物理的に相反しているがそれが成り立っている。実際にドップラーで血流を確認したら確かに物理的圧迫によって途切れている部分があったのだ。だから、これは実体は持たないが、存在する。要は化学では証明ができない。




次に、魔術師の者に10検証したことだが、この魔力には膨大なエネルギーが秘められている。


魔術師が放出する最大エネルギーから計算したものだが、瞬間出力エネルギーがとんでもなく大きいことがわかった。

つまりその元である【魔導基部】にはそれ以上のエネルギーが秘められている。

もしかしたらこの【魔導基部】というのは自然界には存在しない……超重核に類似した物質で構成されているのではないかと仮定した。そうでなければこんなに小さな器官からこんなにも膨大なエネルギーを放出するなんて到底不可能だからだ。


だがそうだとすると核分裂以上のエネルギーを生み出してしまうかもしれない。


……まだ仮定でしかないが、魔術師に畏怖を感じる。

こんなものを脳幹近くに秘めているとは……




だが全くもってわけがわからない。

これ以上は化学では解明することはできない神の領域だというのだろうか。




しかし分かったこともある。『魔法使用時の脳波』だ。

個人差はあるが、一度に一定以上の魔力を使用しようとすると一瞬脳波に揺れが生じるのだ。



そうして……それ以上出力できなくなる。



魔術師たちには、魔法使用に際して色々な約束があると聞く。それが、


【一度に膨大な魔力を使ってはいけない】

【人道に反した使い方をしてはいけない】

【非魔術師に対し攻撃的な魔法を使ってはいけない】


の、主に3つだ。


こうして見ると2番目だけやけに抽象的な気がするが……神に人道などあてはまるのか?これはもしかしたら後から人によって付け足された文章なのかもしれない。

だがもしも制御を超えて魔法を出力したとしたら、魔法制御に関するこの最初の文……これに抵触してしまうのではないだろうか。


この脳波の揺れは魔力制御機構なのだろうが、何者かの意志が働いているようにも見受けられる。

『これ以上魔法を使うな』と、そんな警告のような



……これはあまりに非現実的だろうか。



だが、もしこれが現実であれば、この意志の張本人こそが《魔法を司る神》と呼ばれるゼノ神なのではと考える。



……。



……8年前……私は出張で国外にいたためここでの被害を免れたが、家族をあの大災害で失っている。妻も、子供も、全員だ。

あの大災害は神々が引き起こしたものだと、そんな噂を聞く。だがどんな理由があったとしても許せることではない。あの時、どれほど多くの人が亡くなったか……


神なんて現実的ではない。我々が神と呼んでいる者は、魔術師の一人なのではないか?

そうして私はこの時をきっかけに、魔術師は神々と何かしら縁があるのではないかと考えるようになった。



魔術師とは一体、何者なのだ……


……。


神々を、魔術師を、この謎を、絶対に解き明かして見せる。これが私の研究理由だ。

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