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8年前……
あの日の救助隊員は誰も残っていない。
いや、救助隊員どころか、あの街で生き残っている人の方が希少だ。
あの時、あの街からは5人の生存者が確認された。
その誰もが、直前のことを覚えていない。
私もその生き残りの1人だ。
私の名前はステファン・バルビエ。元特別救助隊員の隊長を務めていた。
私たち救助隊が町の中心部へ入れたのは、大災害が収まって1日が経過してからだった。
我々特別救助隊は通常5人以上でチームを形成するが、どうしても医師が足りなかった。
だがたまたま、先日から学生が1人研修に来ており、帰れない状況となっていた。
当時の記録を見返すと、彼はまだ18……だが、その才能は抜きん出ていて幾度も飛び級をしていた。正に「死者をも生き返らせるほどの技術を持つ」とまで噂されたその学生は魔術師医学界からも認められていた。……私が学生だと思っていた彼は、18にして列記とした医者だったのだ。
残っている履歴書によると、主な経歴はこうだ。
16で最難関大学医学部を卒業と共に医師免許を取得。その後、研修医として大学病院勤務
そして18……先日救急科専門医の資格を取得……
18で……?普通、有り得るだろうか。
一般的にはまだ高校生の年齢だ。だが彼は学生ではなく医者……
しかしその理由は、魔術師の間では有名だった。
彼は、医神 《アスクレピオス》のようだと囁かれていたのだ。それがどこまでが本当かはわからない。しかし、誰もが納得するほど頭は切れ、神がかった腕前だった。
そして彼の《特殊魔法》と呼ばれる魔法……
だが……彼には、友達と呼べる者はいたのだろうか。
早すぎる学位並びに免許の取得
少なくとも、彼の周りに同年代の友人は居なかっただろう。
……そんなことよりも、救急隊員はとんでもなく人手不足だった。主に医師が、それこそ猫の手も借りたいくらいに
そこで苦渋の決断をし、まだ18の……危険な現場に連れていくには若すぎる彼を、連れていった。彼は淡々とよく働いてくれていた……というぼんやりした印象が残っているだけで、私にはそこでの記憶が全くない。
私は、私自身死んだと思ったのだ。
半壊していた建物から子供の声がしたため救助に入ったはいいものの、いよいよ倒壊し、その下敷きとなって。
だが、不思議なことにこうして生きている。
彼がどうなってしまったのか。
当時、あの街での生き残りはたったの7人と言われているから恐らく行方不明かもしくは……
記録にも、彼の欄は滲んで見えなくなっていた。
名前も、安否さえも
あんなにも凄惨な現場へ連れて行ってしまったことへの後悔や懺悔からなのか、思い出せるのは……彼の、色素の薄いオッドアイだけだ
私は未だに、彼の名前すら、思い出せない