◆ 第三章 ◆
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凄惨な拷問で絶命に瀕したとしても蘇生され、また拷問の繰り返し
いっそ死んで消えてしまった方が楽だった……だがそれは叶わない
それほど、一人の生死を左右させることなど、神にとっては簡単で、どうでもいいことなのかもしれない
だが、そんな私に希望をくれたのが、お前だったのだ
―・・・
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◇◆
私はアンリ・カルパンチェ。鍛冶屋をやっている魔術師。
8年前の町全体が崩壊してからずっとその復興を行ってきた。
街並みは元通りになってきたところも多いが、地方の方はまだまだ被害の跡が残る場所も多い。
年の瀬……毎年この時期になると思い出す。
それはおそらく私だけではないはずだ。
私が見た《8年前》の出来事それは
天地を揺るがす大災害
大地震に鳴り止まない雷雨、それに伴う津波と地割れが続いたと、まさに天地がひっくり返る程の大災害そして…
これには、もうひとつ不思議な話がある。
* * *
中心部となったその街はほぼ全壊、
生存者はたったの数名、負傷者・行方不明者多数。
しかし大災害から
その日は朝から大雨だったため、私たちは最低限の人数で瓦礫の撤去作業をしていた。すると、かつて街があった方角からふらふらと歩いてくる青年がいた。
その青年はずぶ濡れになりながらも、濡れないようにと大事そうに何かを抱えていた。
立って歩くのがやっとで殆ど極限状態に近かったが、目には意志が宿ったような……そんな様子だった。
彼は忽ち保護された。
それまでどこでどのように過ごしていたのか全く分からない。
その青年の首から下は、出血を伴う全身酷い拷問のような大怪我と、左肩にはローマ数字の時計と十字架を象った、タトゥーのようなものが見つかった。
彼の精神状態を考慮してか、はたまたショックで答えられる状態ではなかったのか、必要以上に問い質すことはなかったというが、
大事に抱えていたのは静かに眠る赤子で、
その青年は全てを黙秘したらしい
そして保護された翌朝には、青年は赤子を連れて姿を消していた。
あの大怪我で、赤子を連れてどこへ行ったのだろうと関係者全員が彼らの身を案じた。
しかしこの有事の際に割ける人手もなく、結局足取りをつかめることも無かった。
彼は当時未成年だった為に、名前も姿も公表されなかったのだ