-共同魔法研究所-
◇◆
何人目かの患者さんを治療したとき、患者さんから「あなたは、《天使》のようだね」と言われた。
天使……
僕の、幼稚園の時からのあだ名だ。
髪も肌も全身真っ白な僕をそう呼ぶ人もまだ時々いる。
……『天使ちゃん』って
ドキッとしたのがバレたのか、顔に出ちゃってたのか、「はは、唐突にごめんよ。」とその方は笑った。
そうして、「まだ幼いのに君は心を込めて治療してくれているだろう?それが、わかるんだよ。治してくれて、ありがとう」って言われて……嬉しかった。
僕の魔法は、人の役に立てているのかな……
そう思ったら、「ありがとう」が凄く僕の胸に響いて、嬉しくて、つられて一緒に笑ってた。
……
……天使………そういえば。
エリックとフレデリックさんがずっと一緒に幸せでありますようにと願ったあの時……窓が黄金色に輝いて、僕の目の前に天使みたいな、神様みたいな人が、現れたんだ。
その方は暫く僕のことを見た後、僕の胸をトントンって指先で触れながらこう言った。
「ふーん……卿が」
って。でも、それだけ。
その方はアイボリー色のウェーブがかった肩ほどある髪に、淡いアイスブルーの凛々しい目をしていた。すごく神々しくて、とても綺麗な顔をしていて、この世の人とは思えない位遠い存在だけどどこか既視感があるような……不思議な人だった。
この人がゼノ様なのかなって一瞬思ったけど、多分……違う。
どこか優しそうで、何か言いたそうだったけど、ふふっと笑ったかと思ったら消えてしまった。
そうして、僕もそのまま、ふっ、と眠ってしまった。
起きたら、いつも通りの朝だった。ただ、夢で泣いたみたいだった。
多分、エリックの夢を見たから。
……天使様みたいな人のことは、誰にも話していない。
だけど……あの方は一体何者だったのかな……
また、会えるかなぁ
……
そんなことを考えていたら、リアム先生がこの研究所へやってきた。
先生を見ると、安心する。
「遅くなってすまなかった」と、僕がまだ自分自身の《訓練》が始まっていないことに安堵してくれていた。
「遅い」ってジル室長が言った。あんまり仲が良くなさそうな二人。
その二人の会話を、僕は次の方の治療準備をしながら聞いていた。リアム先生がジル先生に今日の訓練について尋ねる。
「……今日の《訓練》の内容は?」
「今日は前十字靭帯の再建だ」
「ロン自身の靭帯再建もですか」
「当たり前だ」
「……怪我している人のだけで十分でしょう…!自分のをわざわざ切る必要なんて、ない」
淡々とした会話。怖い顔をした二人が話している雰囲気は、遠くにいてもちょっぴり怖くて、空気がピリッとする。
一言二言会話が続いた後、今日は自分の前十字靭帯を切る話は無しになったことが分かった。
……よかった…
安堵していたら、リアム先生に「ロン、こっちに来なさい」と呼ばれた。今日は話があるって言っていた。僕の胸にある《刻印》の話。
今まで何度も、リアム先生から聞いてきた。
……この刻印は……僕の強すぎる魔法を制御するもの。
この刻印には《誓約》が課されていて、僕が特殊魔法『
基本的に誓約は破れないようになっているから、膨大な魔力を使おうとすると刻印によって抑制されて魔法が使えなくなる。いわば安全装置みたいな働きをしているんだって。
だけどもしも誓約を破って膨大な魔力を使ったり医療以外に使ったら誓約違反……刻印から発火して僕を焼く。
……そうして僕をこの世から消失させる。
それはおそらく、《天に召される》のとはまた違う……本当に、消えてしまう。
そう……ならないための、刻印でもあるし、僕が暴走して手に負えなくなってしまった時に
僕の魔力量からすると、魔術師の大人10人束になっても僕を止められるかどうか怪しいらしいから……
……だけど魔術師は人数が少ないから、僕が暴走してしまった時にすぐに10人集まるかどうかすら微妙なところ。
だからこその、刻印。
……。
僕の魔法は魔力を込めすぎると細胞を内側から破壊してしまう。《細胞破砕》っていうんだって。これは、破壊の魔法。
適切に使えば人を治療する医療の魔法に。使い方を誤ると人体を破壊してしまう、恐ろしい魔法に。
……だからこうやって刻印によって魔力を制限している。
僕はまだ幼かったから記憶にないけど、僕はこの刻印を付される時に一度神様に会っている。これは、神様たちとの《誓約》だから
……
……あれ……この間あった不思議な人って、もしかしてこの時の神様……?いや、ちがう……その方は、僕にこの刻印があるって知らなかったような口ぶりだった
一体、誰……
考え込んでいたらリアム先生に「ロン?」と心配そうな顔をされた。
僕は「なんでもない」と言って先生の話を聞く。
……刻印の一番大事な働きはそんなわけで僕の魔力制御だけど、それだけじゃなくて別のはたらきもあるんだって。
それは今後ゆっくり話していくと言われたから、今日はその話なのかもしれない……と、ドキドキしていた。
そうして、リアム先生がゆっくりと話し始めた。
………
……
…